case1ー1

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case1ー1

(武瑠(たける)視点) 私は次期社長と言われた男の第一子として生まれたが、あまり期待されていない。 私はアルファだが女で、私が5つの時に生まれた弟が家を継ぐべき男アルファだったことから家で蔑ろにされてきた。 私は家に『居なかった』。 だから見返したくて、何もかも持っていたアルファなのに、努力もした。 神から与えられた容姿と頭脳、運動神経を努力でひたすら磨き上げ、高校に上がる頃には男アルファすらひれ伏すような完璧なアルファになった。 1年生の終わりにアルファ専用学園の高等部の生徒会長にもなった。 しかし。 それでも、私は家に『居ない』。 ねぇ、どうして? どうして認めてくれないの?? 頑張ってるよ、私……。頑張ったのに……。 でも、それでもオメガの生きる環境よりは全然恵まれている。 オメガの取り巻く問題はそれほど深刻だった。 「武瑠」 「??春日部(かすかべ)先輩、どうしました??」 私が2年生に上がり、オメガ専用学園の高等部との夏休みの交流会の準備に励んでいた頃。 1つ上の先輩である副会長の春日部先輩はなにか資料を持って生徒会室に現れる。 先輩は優秀で、私がいなければ会長になっていただろう冷静沈着な男アルファ。 しかし彼は「俺はサポートする方が性に合ってるしお前の方が優秀だから」と文句も言わず私に着いてきてくれている。 私は女アルファだから男アルファやベータにバカにされることが多い。 それを捩じ伏せるだけの実力はあるが、反感を持つ者も多く、現に私が生徒会長をすることに反感してデモも行われたが、それを治めたのも春日部先輩だった。 「いや、ここのパーティの時間、もう少し長くしないか??じゃないとまともに交流できないだろ??」 「ふむ……。そうですね。学園に掛け合ってみます」 「ありがとう」 春日部先輩はホッと息を吐いた。 私はそれを見逃さない。 少しからかってみよう。 「先輩がそれを提案したのはあの幼なじみさんとの逢瀬のためですか??」 「……っ、い、いや、そ、それは……」 春日部先輩は急に顔を赤らめて慌て出す。いつもの冷静沈着さはどこにいったのか。 春日部先輩の幼なじみはオメガで、交流会の相手のオメガ専用学園の高等部の3年生で、その学園の生徒会副会長。 私が彼女の存在を知っているのも生徒会の関わりがあるからだ。 この世界は人々はある一定の時期を迎えると結婚するまでアルファはアルファ専用区域、オメガはオメガ専用区域、そしてベータはベータ専用区域にそれぞれ住むことになる。 それは弱者であるオメガを性犯罪やらから守るためで、それぞれの区域に向かうにはそれ相応の申請が必要だったりする。 それが割と大変で、こういう学校や企業の催しなしではあまり交流はできないのである。 まあ、家庭を持てばそういう隔たりのない区域に住めるのだが、そこが問題の起きやすい地域だった。 「順調なんですか??」 「……なんで今日は追求してくるんだ」 「気分かな」 先輩は「はぁ……」とため息を吐いた。 彼女との事はあまり突っ込まれたくないんだろう。 でも私も女子高生。 恋愛については興味津々なお年頃だ。 「……まあ、順調。このままいけば卒業後はすぐにでも結婚する」 「先輩は大学行かないんでしたっけ??」 「ああ。……彼女と早く一緒になりたいから」 その言葉を聞いて私がニヤニヤすると先輩は居心地悪そうに咳払いをした。 彼らは所謂『運命の番』らしい。 性分化してから初めて会った時、言い知れぬ感情が湧き上がったというから、『運命の番』って本当にあるんだと思った。 私に『運命』はいるのだろうか。 いたとして無事出会え、無事番えるだろうか。 「そういうお前はどうなんだ、武瑠」 「は?何がですか??」 「……そういう相手はいないのかって聞いているんだ」 私はびっくりした。 私が先輩に彼女との話を聞かせろとせがむ時はあっても、彼は今まで私にそんな話をしなかったからだ。 ある種の仕返しだろうか。 「いませんね。まずどっちが好きなのかも分からないし」 「どっちかって、男か女かってことか?」 私は頷く。 「だって私は女だけどちゃんと機能のあるアルファで、誰かを孕ませることができる。でもその相手に選ぶのは女の子なのか、男なのかは分からない」 誰かを孕ませることの出来る私は、女を愛すべきなのか、孕むことの出来る男を愛すべきなのか。 「でも、私だって孕めるからアルファ相手でもいけるんですよね」 私には他にも女アルファ同士で愛し合う手もあるし、私を孕ませることの出来る男アルファを選ぶって手もある。 「まあ、男ベータに孕まされるって可能性もあるけどな」 「それもありますよね。悩みどころですよ」 恋愛経験のない私は私の性的嗜好がどうなのかわかってない。 先輩みたいに出会ってすぐに分かる『運命』に会えないだろうか。 『運命』に出会えたらその『運命』を心から愛して愛して、離さないのに。 そんなことを考えていた私は、数日後の交流会準備で『運命の番』を見つけるなんてその時は思いもしていなかった。 ーcase1の2につづくー
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