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*エピローグ*
それは、求人サイトでこんな案件を見つけたことがきっかけだった。1日だけの彼女募集。日給、100万。
え、嘘でしょ。
こんな仕事普通あるわけない、誰でも怪しいと思う、はず。
それなのに、そうとわかっていたのに、申し込んでしまってた。(あのとき、元彼のInstagram見てムシャクシャしてた・・。)その時のことを、そしてその後起こったことを、今も誰にも言えないでいる。
こんなバイト、いくらなんでも怪しすぎる。少なくとも、100万円というのはきっと嘘だ。しかも、バイトの内容は、ある男の「1日彼女」になるというもの。1日だけ、彼女としてデートしてもらいます。としか書かれてない。最悪、殺されたりして‥なんて考えてしまう。
そんなハイリスクな、“釣り”みたいな求人広告だった。でも、つい、申し込みクリックを押してた。それには、それなりの理由はあったけれど。
まぁ、理由、という程でもないか。
ただ、怖いものなんて何もない・・・そんな程度のこと。
私たち、いや私は、人類がこれまで経験したことのないウイルスのせいで、第7波のパンデミックまで経験し、その騒ぎが治まる頃には、完全に自由を奪われた社会に生存していた。そして周囲の人々は、あまりの恐怖からか、それとも周囲からの同調圧力のせいか、皆、従順にワクチンを打ち、そのワクチン接種証明を携帯するために、スマートフォンや自身の身体にIDを入れていた。
さっき、私たち、と言うのを躊躇った《ためらった》のは、この状況~ワクチン接種歴を記録され世界中の人々が完全に管理される社会~という状況を、むしろ安心して過ごせる社会、と評価する人々がほとんどだったから。自由を奪われたと感じる、私のような人物は異端児とされた。そうして、職場でも日常生活でも周囲から日に日に疎まれ始め、今はもうそれにも慣れてしまってた。
こんな社会、いつでも弾き出されて結構!と半ば自暴自棄な気分で、私は、恐れることも何を期待するでもなく、運命のその日の朝、「彼」との待ち合わせの場所へ、何のためらいもなく向かっていた—。
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