父と海

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 クリスマスのエトセトラ                 サンタクロースを信じていたのは、いつまでだったろう。居間の天井に屋根裏へ出るための小さな戸があって、サンタさんは、きっとここから入ってくるのだと信じていた。 イブの夜は、父が会社で予約してクリスマスケーキを買ってきてくれるので、父の帰りが待ち遠しかった。そのころ、瀬戸内海の海沿いに暮らし、小さな店しかなかったので、ケーキを食べるのも年一回のクリスマスだけ。ケーキにろうそくを立てて「きよしこの夜」を歌う。なぜか神聖な気持ちになる。そのあと、ろうそくを吹き消すのが楽しみだった。ケーキには、クリームで薔薇の花が飾ってある。そのクリームを取り合って姉とじゃんけんしたものだった。  寝るときには、靴下を片方だけ枕もとに置いておく。朝目覚めたら、その靴下が赤い長靴になっていた。中はお菓子で、当時はずいぶんうれしかったのを覚えている。  大人になって、結婚し、子どもができた。今度は私がサンタクロースになる。何気なく、 「サンタさんに、何をお願いするの?」 と、聞いておく。そして家族でデパートへ行き、夫が子どもの世話をして、私がこっそり望みのものを買い、車のトランクへ入れる。そして何食わぬ顔をして合流するのだ。車のトランクではいつ見つかるかわからないので、夜に子どもが寝てから、トランクから彼らが開けない押入れに隠しかえる。そして、イブの夜には、枕もとにプレゼントを置いておくのだ。朝になって、 「サンタさんにもらった!」 と目をパチパチさせながら喜ぶ姿を見るのが、とても楽しみだった。  一度だけ、私の都合がつかなくて、夫にプレゼントを買ってきてもらった。夫は子どもたちが欲しいものより、自分があげたいものを買ったため、息子には図鑑、娘は自転車に乗るリカちゃん人形。息子は、お願いしたものと違うため、 「なんで図鑑なの?」 と不思議がり、娘は着せ替え人形ではないロボットリカちゃんにけげんな表情だった。 「きっとサンタさんが、間違えたのよ」  そんなサンタ生活も、ずっとはできない。 クリスマスはサンタさんからだけでなく、親からのプレゼントもあげていたのである。年齢があがるにつれて、金額も一万くらいかかるようになる。おもちゃにはそんなにお金がかけられない。 あるきっかけで息子が中学生になって、サンタクロースは親だったことを告げた。 「もう、知ってたよ」 と息子。しらじらしく、知っていても喜んだのか。 「お兄ちゃんだけ中学生になっても、もらってずるい」 と、小学四年の娘。サンタが親だったことがショックだったようだ。  かくして、サンタクロース生活は終わった。 しかし、子どもたちはクリスマスは、何かを買ってもらえる日だと思っている。早くも娘は十二月になると欲しいものを、ねだってくる。去年はクリスマスツリーも出さなかった。今年は久々に出してみようか。ケーキを囲んでの「きよしこの夜」は今も続いている。  私が今、サンタさんにお願いするとしたら、家族の健康かな。        
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