正しさへの憧憬

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 今年入社してきたばかりの新人、西根怜(にしねれい)はハタチだった。雪国の小さな会社で、社員の平均年齢は四十六歳。新入社員が来るのは三年ぶりだったから、みんな色めき立った。特に社長なんか、三月一日からカレンダーにバツ印をつけながら、四月が来るのを心待ちにしていた。  そんな社長が彼女に付けたあだ名が「ぴーちゃん」だった。彼女のスマホの待ち受けが、飼っているインコの写真だったから「ぴーちゃん」。そんな安易なあだ名でも、彼女はすんなり喜んでみせる。 「わー、嬉しい。私、苗字がけっこう特殊だし、名前も短いじゃないですかあ。だからあだ名って付けてもらったことないんです。ほんとに嬉しい。友達に自慢します」  そう言って微笑んだぴーちゃんは、ぬかりなくその場にいた全員と目を合わせた。  純粋にすごいとは思う。私には真似できないし、したいとも思わない。  でもきっと、ぴーちゃんにとってこの世は、私よりもずっとずっと生きやすいのだろうと思う。
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