正しさへの憧憬

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「ね、安藤さんも腹立ちますよね?」  澄んだ目で私を見据えてくるぴーちゃん。  悪いことをした人は徹底的に叩き潰してもいいと思っている、圧倒的な「正しさ」。自分ではない誰かのために怒れる「正義感」。自分が加害者側になったり、炎上したりすることはないと信じ、というよりも、そうなる可能性すら考えずに過ごしていける「健やかさ」。  私はそれを持ち合わせていない。動け。念じると、頬がぴくりと動いた。そのまま持ち上げる。笑っているように見せかけるために。 「そうだね」 「ですよね」  ぴーちゃんは満足そうに笑うと、スマホを私の手の上から取り上げ、またニュースチェックに戻る。その様子を見て、私は今きちんと笑えたのだと思った。  笑顔の人には笑顔を返す。社会人としての常識。 「あ。これもだ。ほんと最近腹立つニュースばっかりで嫌になっちゃいますね」  きっと、ぴーちゃんみたいな人の方が生きやすい。でも、どうしてもそうなりたいとは思えない。「正しくない」私は、「正しい」生き方に憧れたりしない。
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