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Ⅰ
この世の重大な秘密に、わたしは気付いてしまった。大人たちはみんなそろって隠し通そうとしているが、わかってしまえば単純なことだ。小学六年生を馬鹿にしないでもらいたい。
このことに確信を持ったのは、修学旅行の道中だった。目的地への新幹線に乗るため、わたしたちは学校でいったん集合したあと、クラスごとに固まって午前中の電車に乗り込んだ。
「佑香はいいよな、歩いて学校まで行けるんだから。パパなんて毎朝毎晩、通勤ラッシュで鮨詰めなんだぞ」
金曜日の夜に揉みくちゃになって帰ってきたパパの言葉を思い出す。わたしが電車に乗るのは、家族で遠出する休みの日ぐらいだ。今までの遠足は徒歩やバスばかりだったし、平日の駅も電車も初めてなのだ。修学旅行の目的地に対する期待感よりも、少し大人になったような朝の電車の非日常感にわたしの心は躍った。
火曜日午前中の車両はたしかに、今まで経験したことがないぐらい混んでいた。スーツやどっかの制服に身を包んだ大人たちが、座席にはとうてい座り切れず、通路にも立ち切れずにあふれている。
パパが会社に向かうよりもだいぶん遅い時間だけど、この大人たちはどこに行く途中なのだろう。遅刻しちゃった人たち? それとも営業とかに出るところ? わたしたちと同じで、実は今から旅行に行く途中だなんて人は多分いないだろうな。
そんなことを考えつつ目線だけを動かして車内を観察していたら、隣に立っているおばさんに足を踏まれそうになって引っ込めた。こんな電車に毎日乗らなければいけないなんて、大人は大変だ。
特急で数駅先の新幹線と直結する駅で、わたしたちは大量の大人といっしょに車両から吐き出された。脇目もふらず改札へ向かっていく人たちをやりすごしたあとは、降り立ったホームで点呼がある。
「ねぇ、佑香ちゃん。あっちで速水さんが泣いてる」
横でしゃがんでいた瞳ちゃんがささやいた。指をさされた方向に目をやると、少し離れた時刻表ボードの陰で、隣のクラスの速水さんが静かに泣きじゃくっているのが見えた。先生が二人がかりでなだめている。
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