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 速水さんは去年転校してきた、アイドルみたいに可愛い顔の女の子だ。クラスが違うから直接話したことはないけど、男子がよく噂しているのを聞くので少しは知っているつもりだ。  長いまつげにぷくっとしたくちびるが愛らしくて、なのにそれを鼻にかけるどころか、おとなしくてほとんど喋らないらしい。学校に着てくる洋服も大人っぽくてセンスがいいし、参観日に来ていた速水さんのママもものすごく綺麗な人だったのだとか。 「ほんとだね、電車の中でなにかあったのかな。2組は隣の車両だったから見えなかったけど」  わたしがそう返すと、瞳ちゃんも怪訝な顔つきになった。 「待ちに待った修学旅行だっていうのにね」  そのままそちらの方向を見ていると、横のクラスの列から、よく見えないとばかりにしゃがんだまま身を乗り出してきた男子が、視界に入り込んできた。村上(むらかみ)だ。  村上は中学年のときにクラスが同じで、今では速水さんと同じお隣の2組。今でもクラスが同じだったときと変わらず話しやすい、単純だけどいいやつだ。 「あっ、村上。行きの電車でなにかあったの? 速水さん泣いてるじゃん」  村上も多くの男子と同じように速水さんのことが好きらしく、手洗い場で顔を合わせるたびに速水さんの話題をわたしに振ってくる。言葉にして恋心を打ち明けられたことはないけれど、長い付き合いだからわたしにはわかるのだ。 「速水さん、電車で隣に立ってたおっさんに乗っている間じゅう、強く押されてたみたいだぜ。ずっと我慢してたのに、最後の最後で電車から出るときに覆い被られて、ついに泣いちゃったみたい」 「まぁ混んでたからねぇ、気持ちはわかるよ」と、どこか拍子抜けしたように言う瞳ちゃん。「なーんだ、そんなこと?」と表情は語っている。  地域の野球チームで男子といっしょになって白球を追っている瞳ちゃんはサバサバしている分、本音が顔に出やすい。わたしも体を動かすのは好きで気が合うところも多いけど、瞳ちゃんの切り替えの良さにはときどきついていけないことがある。
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