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ここまで張り詰めていた分、やっと吐けた一息の空間に、もう1人の功労者が姿を見せた。
「あ、いた。葛葉さん」
声をかけたのは、制服の上にパーカーを着た奏多だ。どうやら遥を探していたようだが、ここで思わぬ事態が起きた。
「ん?」
「あ?」
「ぁ、えっと……」
なんと、2人とも返事をしたのだ。もう1人には心当たりが無く、戸惑ってしまう。
「ああ、さっきの……うさぎくん」
「あ、えっと、うさぎじゃなくて、兎茶です」
「あれ? ごめ、間違えてたか」
「いえ、よくあるので」
ようやく訂正できた。会話も出来て、気まずさも少し緩和される。
「ああ……お前の客か」
「ん、今回すっごい助けてもらっちゃって」
「そうかよ。悪かったな、この“じゃじゃ馬”が面倒かけて」
「え、あ、いえ!?」
思わぬ方向からの謝罪が来て、準備出来ていなかった奏多は無駄に背筋が伸びる。頭が回らず、『じゃじゃ馬』という単語も頭に引っ掛からなかったほどだ。しかし、遥は不満そうにする。
「おい、何で俺は面倒かけた前提なんだ」
「この状況でお前が迷惑かけてねぇ方が珍しいだろうが」
「ぐぬぬ」
「そ、そんなことないですよ! それに、助けてもらったのは、俺たちの方ですし!」
「だって」
「ハァ、そうかよ」
奏多のようやくのフォローに得意げになる遥に、おっさんは頭を抱える。すると、また別の方向から、警察官らしき人物が用を伝えに来た。
「葛葉さん、少し良いですか?」
「おう、こっちはもう終わった。今行く」
(葛葉さん?)
今度は、おっさん――葛葉隆二だけが反応した。別れの挨拶代わりに遥の頭で片手をポンッと弾ませると、人相の悪い笑みでその場を離れていった。
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