後編

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 ここまで張り詰めていた分、やっと吐けた一息の空間に、もう1人の功労者が姿を見せた。 「あ、いた。葛葉さん」  声をかけたのは、制服の上にパーカーを着た奏多だ。どうやら遥を探していたようだが、ここで思わぬ事態が起きた。 「ん?」 「あ?」 「ぁ、えっと……」  なんと、2人とも返事をしたのだ。もう1人には心当たりが無く、戸惑ってしまう。 「ああ、さっきの……うさぎくん」 「あ、えっと、うさぎじゃなくて、兎茶です」 「あれ? ごめ、間違えてたか」 「いえ、よくあるので」  ようやく訂正できた。会話も出来て、気まずさも少し緩和される。 「ああ……お前の客か」 「ん、今回すっごい助けてもらっちゃって」 「そうかよ。悪かったな、この“じゃじゃ馬”が面倒かけて」 「え、あ、いえ!?」  思わぬ方向からの謝罪が来て、準備出来ていなかった奏多は無駄に背筋が伸びる。頭が回らず、『じゃじゃ馬』という単語も頭に引っ掛からなかったほどだ。しかし、遥は不満そうにする。 「おい、何で俺は面倒かけた前提なんだ」 「この状況でお前が迷惑かけてねぇ方が珍しいだろうが」 「ぐぬぬ」 「そ、そんなことないですよ! それに、助けてもらったのは、俺たちの方ですし!」 「だって」 「ハァ、そうかよ」  奏多のようやくのフォローに得意げになる遥に、おっさんは頭を抱える。すると、また別の方向から、警察官らしき人物が用を伝えに来た。 「葛葉さん、少し良いですか?」 「おう、こっちはもう終わった。今行く」 (葛葉さん?)  今度は、おっさん――葛葉隆二(くずはりゅうじ)だけが反応した。別れの挨拶代わりに遥の頭で片手をポンッと弾ませると、人相の悪い笑みでその場を離れていった。
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