後編

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 背中だけしか見えなくなると、遥は頬を膨らませてボヤいた。 「ったく、いつまでも子ども扱いしやがって……。俺もう26だぞ?」  そうだったのか、という思考がモロに顔に出る。見た目より若い言動に惑わされていたが、確かに言われてみればそれくらいでも不思議ではない。 「えっと、あの人は?」 「ああ、俺の叔父さん」 「あ、なるほど」  だから苗字が同じなのか。そう納得しかけたが、まだ終わっていなかった。 「兼、親父」 「兼!?」  さらっと処理しづらい事実を告白され、どう落とし込めば良いのかがわからない。奏多が目を丸くしていると、遥は何でもないように説明する。 「俺の両親が俺が未成年の時に亡くなったからさ、おっさんがそのまま引き取ってくれたんだよ。だから、親父?」 「な、なるほど」 「そんなことより」 (そんなこと??) 「どうした? 俺に何か用か?」  割と重たい事情のはずなのに、紙風船のように軽く扱う。本人にそんなことをされては深く考えることも憚られ、奏多は無理矢理本題に入ることにした。 「あ、えっと、お礼を言おうと思ったんですけど、見当たらなかったので……」 「ああ、探させちまったのか。そりゃ悪かったな。あんま人混みとか、注目されんのとか? 好きじゃなくてさ。ささっと離れた」 「そうだったんですね」  緩く話す遥は、危機的状況の中での雰囲気と全く違う、安心させる空気を纏っていた。それが分かり、奏多も少しほっとした。
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