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「それに、お礼を言うのは俺の方だ。ありがとな」
和んでいたところに、急に慣れない感謝をされたものだから、思わず肩が跳ねた。
「え!?い、いや、俺は何も!」
「そんなことねぇよ? 実際、あそこで声上げてくれなかったら、判断が遅くて首切られてた可能性もあったし。タイミングバッチリ」
「そ、そんな。むしろ、俺がもっと早く言えていれば、貴方が怪我をすることは……」
OKサインまで作ってフォローしているのに、奏多は欠点を見つけては無駄な責任を感じている。恐らく、性分なのだろう。
しかし、受け取ってもらえないままでは遥も気持ちが落ち着かない。このままでは埒があかないと考え、ブレーキに足をかける奏多を物理的に止めることにした。
「はいストップ!」
「ふへっ!?」
いきなり両頬を片手で掴まれては、さすがに喋れなくなる。ネガティブ発言ごと封じられた。
「あのな? お前が俺に助けられたって思ったのと同じように、俺はお前に助けられたって思った。そのことは、否定して欲しくないんだわ。おけ?」
「ふぁ、ふぁい……」
「ん。だから、お互いに助けられたな〜、良かったな〜ってことで、この話はお終い。な?」
無理矢理にでも言い聞かせるように伝え、ようやく手を外した。その誠実さの前では、謙遜は失礼に値すると気づいた。奏多も、ようやく笑顔を返す。
「……はい、分かりました」
「よし!」
満足そうな遥は、少し無邪気さが残る仕草で笑った。
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