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話が一段落したと思ったら、遥は唐突に、あ、という声を出した。
「というかお前、蹴られたとこ大丈夫か? 折れたりしてねぇのか?」
「は、はい。そこは大丈夫です。まだ痛みはありますけど、このくらいなら、多分大事には至ってないかなって」
少しさする部分は、恐らく地肌に痕が残っているのだろう。手加減されなかったことは、傍から見ても分かっていた。
「そっかそっか。正直ヒヤヒヤしたからな〜。巻き込んじまって、悪いことしたな、って。」
「そ、そんなことないですよ!俺、……」
「……?」
ここまでテンポ良く会話出来ていたはずが、突然電池が切れたように止まってしまった。遥が黙って待っていると、少しの間の後に顔を上げた。
長旅を終えたように、スッキリした表情で。
「……俺、いつも何も出来なくて、あんなに勇気出したの、人生で初めてかもしれないです。こんな俺でも、誰かの役に立てたのかなって。そう思えたんです」
どんなに明るい人でも、悩みがなさそうに見える人でも、1つくらい抱えているものはある。そんな考えを常に重要視している遥は、何も聞かずに目を細めた。
「……そっか」
「だから、その、こんなときに不謹慎かもしれないんですけど、あの、その……」
スラスラ言葉が出てきていたのが嘘のように、何も続かなくなってしまう。自分の気持ちを言葉にすることには、慣れていないのだろう。遥にとっては、少し親近感を感じる光景だった。
「……ふ。まあ、ただ傷つけただけじゃなかったなら、良かったよ。こんなことは2度とねぇ方がいいが、また機会があったら、お茶でもゆっくり飲もうぜ」
「はい」
穏やかな風が作り出したのは、刹那に感じる空間だった。
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