プロローグ

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 横浜某所、夏。うだるような暑さに音を上げる者が1人いた。 「あっつ~~……。なんなんだよこの暑さは……。汗が乾く……」  Tシャツの襟をパタパタさせ、少しでも風を送って紛らわせていたその人は、昼食のために外に出た葛葉遥(くずははるか)だ。短い髪は瞳と同じほど黒く、汗でべたついた様子もないほど風に身を任せていた。 「こんな日の夜は絶対、餃子と小籠包片手にビールを飲んでやる……。俺の癒し……、……腹減った」  胃袋が空腹を訴えるのは最もで、もう気温はその日のピークに達していた。お昼には少し遅い時間だろう。人の混んでいない時間を選び、目当ての店に向かっていた。 『…………!! ………………!』 「ん……?」  人より少し耳が良く、周りの気配に敏感なのが、遥が嫌になる自分の特徴だ。穏やかではない怒号、金属が固いものに接触する高音、地面に擦れる雑音……。路地裏からの騒音に、周りの人間は皆、眉を顰めて離れていった。  ……この場は、脳が遥に“動け”と指示する材料で溢れていた。 「はぁ……、今日はせっかくの休みだったのに……。若者は元気でいいよなぁほんと……?」  自分もまだそんな歳ではないだろう。……そんなツッコミをしてくれる人は生憎、今は傍にいなかった。
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