前編

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前編

 海から来る風とビル同士の間で起こる風が、外で紙切れを持つことは自殺行為だと伝える。特に太陽が高く昇っている間は皆、機械が作り出す好環境に逃げ込む。  人混みを避けるように過ごす遥も、さすがに仕事をしなければ生きていけない。ようやく見つけたアルバイトも、いつまで続くのやらと何度目かの呆れ笑いを復唱する。  息の吐ける時間は激動の中ではあっという間なので、有効活用するべく近くのファミレスに入った。 「いらっしゃいませー。」  青年の爽やかな声で迎えられ、空いている席へと誘導される。人工的に作り出された空気がやりすぎなほどに身体の熱を奪い、Tシャツで来たことを少し後悔する。  まぁしょうがないことだと割り切り、少しだけメニューを見てからボタンを押す。安くても満腹になれる量を頼んだ後も、どんどん冷たくなる地肌を撫でる。 (うーん……、今からでも上着取りに行こうかな……? ……いや、そうしてる間に来ちまうな、いいや) 諦めていたその時、誰かがそっと話しかけてきた。 「……あの、良かったらこれどうぞ」 「ん……?」  振り向くと、柔らかそうなブランケットを持った店員が立っていた。どうやら遥の様子を見て、わざわざ持ってきてくれたようだ。 「おぉ……、すみません、わざわざ」 「いえいえ。むしろここ、エアコンの風が直接当たるので、少し寒くなるんです。けど、今は他が満席でして……移動が出来なくて、すみません」 「いや、これだけで十分ですよ。ありがとうございます」 「はい」  茶髪が似合う青年は、瑠璃色の瞳を細くして微笑む。そのまま早歩きでレジに行き、呼び出されていたレジに向かった。 (……あの店員の人、すごい良い人だなぁ) 普段は会話した人の名前ですら覚えられないはずが、何となく名札に目が行った。 (『うさ』……って、本名……? ……可愛いな) そんな呑気なことを考えている間に、頼んだドリアは湯気と共にテーブルに運ばれていた。
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