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全く動じていない遥の傍らでは、店にいた全員の動きを封じた支配者が店員に命令する。
「おい、客を一箇所に集めろ。そうだな……、1番奥のテーブル席に、全員移動させるんだ。男女で分けて、男は奥だ。いいな?」
「は、はい……!」
「荷物は持たせるなよ? スマホはこっちで預かる」
常に銃口を向けて牽制する気でいるらしく、強盗がやるべきことを恐怖に震えた従業員が不慣れな様子で対応することとなった。
その間に遥のイヤホンには、終わった機械音に代わって人懐っこい声が届いた。
「はいはーい、鏡矢でーす。何か御用?」
電話の相手である仔猫鏡矢による場違いなほどに明るい対応に、遥の頬も少し緩む。そして、本名とは違う名前で話を切り出した。
「ん、御用だよ、【黒猫】さん?」
「おっと、俺をその名前で呼ぶってことは、お仕事ですかな?」
「ですです。ファミレスで強盗に遭った。相手の情報よろ」
「え、割とヘビーな案件だったわ。無事なの?」
「もち」
「ならよし。今調べるから、スマホそのままね。位置情報から漁るから、もう喋んなくて良いよ」
ありがと、と口パクしていると、先程の青年が申し訳なさそうに顔を覗かせた。
「あの……、すみません。移動、良いですか……?」
拳を握り、なんとか震えを抑えているのがわかる。きっと、相手を慮っているが故なのだろう。
「……ふっ、大丈夫ですよ。俺は勝手に行くんで、あっち、お願い出来ます?」
「え……?」
やけに冷静な対応に呆気に取られながら指差す方を見てみると、……庇うように子どもを抱えた女性がいた。
「アンタなら、安心させられると思うから」
「は、はい……」
「じゃ、また後で」
片手を挙げてすれ違い、画面が見えないようにしてスマホを回収袋に入れた。全く動じていない様子につられ、青年――兎茶奏多は大きく息を吸った。
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