2.貞操

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 言葉と共にのしかかられて再びスカートに触れられた。  理乃は体を縮ませながら必死で彼の腕から逃れた。抵抗をする理乃の様子に康太が痛いような顔をする。 「そんなに俺のことが嫌いか」 「ち……違います‼ 嫌いなんかじゃ」  理乃はあわてて彼に答えた。貞操観念はまた別としても、勝負下着の一枚もない危機管理能力のない自分が憎い。 「じゃあなんでそんなに逃げるんだ」 「だ、だからなめこ柄のぱんつと──危機が王族としての貞操で──」 「だって初めてじゃないんだろ」 「そんなこと、一言も言ってません‼」  泣き出しそうになりながら叫ぶと、彼のたれ目がまん丸くなった。 「──え?」  やっと何とか通じた言葉に、理乃は涙目で訴えた。 「だから……。本当に、こんな経験は初めてです。押し倒されたのも初めてで、こんな格好も初めてです。だからさっきから誤解があるって」  康太の手から力が抜けた。  理乃は真摯な声で続けた。 「先輩。初めて会った時から先輩のことが好きでした。入学した時すぐに先輩が私に声をかけてくれたから、この半年間本当に楽しく過ごすことができました。──しかし、私は一国の王女です。王女の務めは祖国を守り、国家の安寧の役に立つこと。私の結婚はゴールデンスティック王国における国策であり、私の貞操は国の財産です」  康太の告白を耳にした時、喜びに舞い上がるようだった気持ちを今改めて思い出す。  あふれそうになった涙を見せないように顔をそむけ、理乃は一度だけ唇を噛んだ。だが、すぐに自分を見下ろしている康太の顔を見返して、凛とした口調で言い放つ。 「私の体は国の物です。私のものではないのです。ですから、私は先輩の言葉に従うことはできません」 「……」  康太は無言で理乃を見ていた。理乃のスカートに触れている手がゆっくりとした動きで離れる。  その時、理乃のトートバッグからスマホの着信音が鳴った。理乃はあわてて康太に告げた。 「教育係のクロトンです。お願いですから、私を解放してください。定時連絡に私が出ないと、クロトンが護衛の従者と共にこちらにかけつけてしまいます。早く電話に──!」 「クロトン? ああ、オクラレウカ伯の子息か」  ぼそっと康太がつぶやいた言葉に、理乃は両目を見開いた。 「あいつ、一昨年までうちんとこに大使として滞在してたよな。前髪きっちり七三分けの、イヤミな言い方する男だろ? ……あいつがお前の教育係か」  理乃は顎がはずれそうになりながら真上にある顔を見た。  康太の口からこぼれ出た、理乃が今いる世界では決して語られるはずのない、自国の貴族に関する情報。  康太はどこか不満気な目で理乃に重なった体を起こすと、トートバッグの中で鳴っている理乃のスマホを取り出した。慣れたしぐさで画面をタップし、そのまま耳へと押しつける。
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