足跡

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居間に戻ると主人がお茶を飲んでおりました。 雪がまだ残る照り返しが眩しい庭を眺めながら目を細め、何かを思っている様な横顔が見えました。 「皆、立派になっちゃって」 私が主人に話しかけると、思いもかけない言葉がかえって来ました。 「お母さんが亮太をしっかり育ててくれたから、いい友達ができたんだ」 目を細めて頬を緩め、飲んでいた湯呑みをゆっくりとテーブルにおきながら呟く様に言ったのです。 主人は無口で仕事一途で、家庭の事は何も気にせず、あまり自分の感情を表に出さない人です。いざと言う時は優しく支えてくれてはおりましたが、感謝の言葉をかけられたのは初めてでした。 長年連れ添うと、表情や動きで自然と気持ちがわかってしまうものです。私はそれで十分でした。なので、その言葉を聞いた時、目が熱くなりました。 「ご馳走様でしたぁ~」 ばらばらと男の子達の声がしました。私達は玄関に向かいお礼を言って見送りました。 見送りながら、あの子達の背中を見て、本当にありがとう。あんな事があったけど貴方達のお陰で亮太は幸せでした。そう心の中で呟きながら頭を下げました。
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