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穏やかな日々
亮太の成人式から早いもので10年の月日が経ちました。
主人は定年を迎え、最近では私の体調が優れない事もあり、家事を手伝ってくれる様になりました。
「俺も、仕事ばかりで趣味を持たなかったからな、料理を趣味にするか」
覚束ない手付きで魚を焼いています。
「知ってるか?織田信長は魚を焼くのが上手かったんだぞ。ひっくり返すのは1回のみ、その頃合いを見極める事が出来たから、時代を築き上げたんだ」
したり顔で私を見て魚をひっくり返しています。
私達はそれからも、少しの贅沢で温泉に出掛けたり、庭の手入れをしながら花を育てたり、本を読んだり…。静かに穏やかに時を重ねて参りました。
今日は亮太の月命日、毎月お墓参りに行って、お墓の横にある見晴らし公園の茶屋から景色を眺めるのが常になっておりました。
「ここから見ると町の騒がしさが嘘のようですね。まるで美しい絵画の様です」
「あぁ、俺達夫婦もはたから見れば何事も無かったごく普通の夫婦だ」
主人はそう言ってお墓に向かって歩いて行きました。私はその時、前よりも間隔が狭くなったその足跡を愛おしく思えたのです。
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