私は、井上優紀

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私は、井上優紀

 「へえ、君は女の子が好きなんだ。美人なのにもったいないね、男の子と付き合ったことないの? だったら俺が教えてあげるって」  ……しまった。面倒を避けようとして言ったのに、かえって面倒な事態に巻き込まれそうだ。 「あー、いえ、ほんとそういうの大丈夫なんで、はは……」  私は最後に乾いた笑いを付けた。場の空気を乱すのもなんだし、ここはなんとか軽い感じでかわしたいところだ。  「人数合わせ」とかいって無理やり誘われた合コン。早々に「私の恋愛対象は女子です」と言ってけん制したつもりだったのに。あーあ面倒くさい、やっぱり来るんじゃなかった……。  私の名前は井上優紀。読みは「ゆき」だが、自分としては男の子っぽく「ゆうき」と言われた方がしっくりくる。  初めに違和感を覚えたのはいつだろう? 生まれてすぐから、と言いたいぐらい、自身の性自認は端っから「男性」である。 「優紀ちゃんは女の子だから、こういうの好きでしょう?」  初孫の私を、それこそ目に入れても痛くないほど可愛がってくれた祖父母は、私をおもちゃ売り場に連れて行くと、決まって「女の子コーナー」に直行しお人形さんやぬいぐるみを私に差し出した。  私は電車・戦隊ヒーロー・プラモデルがある「男の子コーナー」に心ひかれつつも、目の前で満面の笑みを浮かべている祖父母に気圧(けお)されて、ただあいまいにうなずくのであった。  年をとっても「心はガーリー」な母は、私にヒラヒラ・ピラピラ女の子全開ピンクピンクでさくらんぼ、要するに本当は自分が着たかったであろう服を着せては、自己投影&自己満足に浸っていた。 「ママー、これじゃ木登りできないよ、優紀はズボンがいいのにー」  試着室から出てきた娘をうっとりと眺めている母の耳に、そんな私の訴えが届くはずもなく。 「わあ、優紀ちゃんかわいい!本物のプリンセスみたいよ」 「ほんとによくお似合いですぅ。とってもキュートですねっ」  と、店員といっしょになってキャッキャしている。それもまんざら嘘ではなく、幸か不幸かいわゆる「お人形さんみたいな」顔立ちだった私は、実際プリンセス然として見えたのだった。  そんな私の初恋は、まあ想像に難くないとは思うが、悲惨なものであった。
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