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山田茉優ちゃん
小学生の時はピンクのヒラヒラが多かったとはいえ、それでも青や茶色のズボン姿も(母はいい顔をしなかったが)それなりにしていた。
ところが中学生は制服があるので、私は選択の余地なく毎日スカートを履くはめになった。しかもあろうことか、セーラー服というまさに「女学生でござい」という代物を身に付けねばならなかったのだ。
私は仕方なくその屈辱に耐えたが、心はやはり男の子なわけで、好きになる子も当然女子である。そして私は、同じクラスの山田茉優ちゃんに夢中になった。
色が抜けるように白く唇はいちごのように赤く、ちょっと下ぶくれのほっぺには笑うとえくぼが浮かぶ。何かを訴えかけるような大きな瞳は、くるんと長いまつげで囲まれている。
中学一年生ですでに165センチあった私より15センチは低いであろう小柄な茉優ちゃんは、ショートケーキみたいに甘くてかわいい、まさに守ってあげたくなるような女の子であった。
「優紀、帰ろうー」
「うん、行こうか茉優ちゃん」
二人は親友(少なくとも茉優ちゃんの認識としては)として、いっしょに登下校をする仲になった。そして帰宅途中の公園のベンチで、学校のことやテレビのこと、テストのことや好きな子のこと。そんなたわいもないおしゃべりを、毎日のように楽しんだ。
「ねえ優紀、今日の達也くん見た? かっこよかったよねー!」
うっとりと語る茉優ちゃんに調子を合わせつつ、
「体育の時でしょう? そだね、相変わらず足早いよねえ」
私が実際見ていたのは、「達也くんを見ている茉優ちゃんの横顔」だったわけだが。
「ねっ、ねっ、優紀もそう思うでしょ? うふふ」
三橋達也くんは、同じクラスの男子だ。勉強もスポーツもできて性格も明るいという、絵に描いたようなクラスの人気者。見た目も芸能人の誰かに似ているとやらで、女子にモテモテである。
とはいえ、優紀にはその「男としての魅力」がまったく響かないのだが。
まあさっぱりした性格でいい奴ではあったので、達也くんのことが好きな茉優ちゃんに付き合って、優紀も達也くんとはちょくちょくおしゃべりする仲になっていた。
とはいえ優紀は、少しほおを赤らめながら達也くんの話をする茉優ちゃんの、楽しそうな様子を見ているのが一番好きだった。
恋する女子は美しい。私はそのマシュマロみたいなほっぺに触れたくて身もだえしたが、そんな事をしたらどうなるかさすがに想像できたので、じっとこらえて女子トークの「ふり」を楽しむことで我慢した。
そして迎えたバレンタインデー。そこでついに最悪な事が起きてしまった。
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