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 七月、農園レストランロートは開店の日を迎えた。李花は羽場印刷の社員として営業の桜田(さくらだ)とともに開店記念パーティーに招かれていた。  パーティーの前日、李花は久しぶりに光一のスマートフォンにメッセージを送っていた。  ――私が食器選びを手伝ったことは、誰にも言わないでください。  あの陶炎祭の日を思い出したくなくて、光一にお願いした我儘(わがまま)だった。レンコン料理を盛られた笠間焼の大皿を目にすれば、胸が苦しくなる。  失礼だとは思ったが、李花は光一に途中で帰る旨を手短に告げて会場をそそくさとあとにした。  レストランを取り囲む蓮の花は、昼に到着したときには満開だったのに午後にはもう閉じていた。  硬く閉じた蕾のように恋心は封印して、もうここには来ないようにしよう。李花はレストランから目をそらし、車のロックを解除しようとした。 「あの、えーっと、あー、倉川さん?」  聞き慣れない女性の声に名前を呼ばれる。振り返ると、そこにいたのは光一の姉である実穂子(みほこ)だった。茶色く染めた髪が午後の太陽を受けて金色に見える。 「はい、そうですけど……」  実穂子がなぜここまで追ってきたのかわからないまま、李花は車のキーを持った腕をおろした。 「あのさ、私は回りくどいのが苦手だから単刀直入に聞いちゃうんだけどさ、やっぱり農家の嫁にはなりたくない?」
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