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「え、でも、そういうわけには……」 「大丈夫。文句言う奴が出ないように、親戚たちには私がきっちり話をつけておくから」  そう言う実穂子の眼光は鋭い。パーティーのときFMコスモのリスナーの誰かが「あの人がはっすーの元ヤンキーのお姉さん?」と言っていたのを思い出した。 「私に息子が三人いて誰かが継ぐ予定だから、『長男の嫁だから後継ぎ産まなきゃ』なんてプレッシャーを感じる必要もないから」  李花は光一の気持ちも知らないのに、実穂子の口からはどんどん具体的な話が出てくる。その勢いに圧倒されつつも、「やっぱり農家って継ぐものなんですね」とぽつりと言ってしまった。 「農家に生まれただけで将来が決まっているって、なんだか窮屈ですね」  言ってからしまったと思った。実穂子は現に農家を「継いで」いるのだ。怒らせたのではないかと実穂子の顔を見たが、実穂子は先ほどのような鋭い眼光ではなく、笑っていた。 「私も昔はそう思ってた。光一が東京の会社に就職しちゃったときなんて誰が継ぐんだって親戚まで集まって大騒ぎだったよ」  実穂子がレンコン畑に目をやる。 「でも、私は父ちゃんが作るレンコンが大好きだったんだ。父ちゃんのレンコンは茨城一、日本一、世界一だと思っていたから」  李花もつられてレンコン畑を見た。どこまでも続くレンコン畑には、大きな緑の葉が茂っている。
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