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その後、どうせなら陶炎祭で実物を見て決めようということになった。陶炎祭会場周辺の駐車場はとても混雑するらしいので、李花が車を出すから一台で一緒に行こうと誘った。光一は申し訳ないから自分が運転すると言い張ったが、つくばから笠間は距離があるし、慢性睡眠不足の光一には運転させられないと押し切った。
ゴールデンウィーク中に一日だけカフェロートを臨時休業にし、李花と光一は陶炎祭に向かった。助手席で寝ていてくれて構わないのに、光一は何かと李花に話しかけてくれた。
「この時期は茨城が一番美しい季節ですよね」
車の窓から外の景色を眺めながら光一が言う。
「え、どういうところがですか?」
「田んぼに水が張られて、その水が鏡みたいに空や山を映すじゃないですか。田植え前のごく短い期間に見られる貴重な光景が大好きなんですよ」
田舎が嫌いな李花には、田んぼの美しさは分からなかった。李花は田舎が窮屈だと思って東京に出て行ったのに、体調を崩してやむを得ず地元に戻ってきた。田んぼの美しさを熱く語る光一を、李花はどこか遠い存在に感じていた。
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