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現在、弊社で招聘しているタレントはロシアやUKのラウンジピアニスト計5名と、フィリピン弾き語り奏者の1名のオッサンのみ。合わせてたったの6人。
エージェント契約を交わしているので在留資格期限で帰国されても、途切れることはない。興行ビザなので、3ヶ月若しくは延長含めて半年後交代ということになる。
父の代から公演しているフィリピンの弾き語りはもう老いぼれなので、後釜を考えなければない。まぁいなくてもいい。一人でやっている分、そこまで事業の拡大は考えていない。
幸い、結香は移動通信事業JT&Tモバイルで勤務しており、まあまあ給料貰ってるんで、多少の贅沢な暮らしはできている。更に難しいビジネス的なメールや書類の英文は翻訳して貰っている。感謝しかない。
果たしてあの時、渡米してハリウッドのスミス氏の元で働いていれば、もっと語学も堪能で踏み切った話もできれば、多くのコネクションも持てていたんだろうか。
"アメリカなんて行ったらもう終わりだよね”
”遠距離なんて無理。スープの冷めない距離っていうじゃない”
…思い出す。
あの時、僕は行かなかった。
理由はその子を離したくなかったから。
その選択は、決して間違いではなく、正解だった筈なのに。
TVを見ながらビールを飲んでいる結香の隣に座り、焼酎の水割りを一口飲むと、拓海はぼんやりと白い壁を見つめ考えていた。
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