会敵1 ハイデンハイムのローレライ

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会敵1 ハイデンハイムのローレライ

“距離2000、総数7人を確認 ” 俺の目の前の無線機からシュヴァルツヴァルト撤退戦以来の相棒、ミアの声が聞こえてくる。 彼女は俺の前方2000mのファーインマー河を望む比高30mの岬状に張り出した崖の上に陣取り、街道から行軍中の敵歩兵小隊を視認し俺に報告をしてきた。 「総数7人了解した。こちらでも正面3000m ファーインマー橋に向かう小隊を確認した。橋の中央で行動開始」 “カーピー(了解)” 俺はミアの更に後方1000m。河を望む崖の上で寝そべり狙撃の準備を整えている。ミアの報告通り、俺の測距用モノスコープでも奴らをおぼろげながら確認できたところだ。 天候は快晴、ここの名物の霧も今日は出ていない。絶好のスナイプ日和。おまけに20℃のぽかぽかだ。あと、1時間もこの体制でいたら間違いなく夢の中で美女を抱いていたと思う。 それにしても、小隊で行軍とはおめでたい連中だ。おそらく、威力偵察か何かだろうが…… ここは前線から一段後退したラインだが、こういうお客さんは時々いらっしゃる。 今日は、俺達にツキがあった。前線に行くか迷ったが、ミアの一言“今日はここに来る”にかけた。このままいけば、二人とも7万ゴールドいただき、ちょろい仕事になる。 奴らの行く手には幅300mのファーインマー河が東西に流れ、街道にはそのままの名前ファーインマー橋が河と直交している。俺はこの長さ500m幅10mほどの斜張橋の中央でお客さんをお迎えすることに決めた。 街道の周囲は廃墟のビルが立ち並び、そこに隠られては非常にめんどい。当然。奴らも阿保ではないだろう。この橋には罠があることぐらい気付くだろうが…… 「お前は後方から打ち込め、俺は前方から狙う。10秒で片付けろ」 “カーピー” 無線機の割れた音声が無機質に反応を返してきた。 橋まで残り100m。 ミアからは街道と橋の側面が見渡せる。哨戒には絶好のポイント。俺は正面に橋が位置し狙撃には絶好の位置取りだ。 スコープの中のお客さんたちは橋のたもとで2名を索敵に残し5名を散開させて渡り始めている。のこり250mで作戦開始、ものの数秒で俺のトラップへいらっしゃ~いだ。 “ラーララララ……ラララ…ラララーラー……” 無線機からミアの歌声が…… 讃美歌だ。これから、天国へと誘うお客様を讃美歌で送るいつものミアのやり方。そして、 それは連中にも聞こえるように、お手数なことにわざと無線機を欄干に括り付けていやがる…… 素早く渡河を試みる者、その場で射撃姿勢を取る者、 お客さんが橋の上で大混乱だ。 アテレコしようか? 『ど、どこだ?』 『で、出た!』 『助けてくれ!』 『俺はまだ死にたくない!』 『ローレライだ。ハイデンハイムのローレライが出た!』 ってところか。 そう、俺の相棒ミアは、古い御伽噺に出てくる、歌を聞いた者が魅了され死へと誘われる魔の妖精ローレライとして、味方には絶対の守護神、敵には絶望を与える死の女神、あったが最後、出来るのは安らかな死への祈りのみ、その名も 【ハイデンハイムのローレライ】 として、この当たりの戦線では通っているのだ。 しかし、それにしても……ミア……頼むぜ…… ため息の一つも出るってもんだ。そのまま放っておけば、簡単な仕事をわざわざ蜂の巣をつつくようなやり方をしやがる俺の相棒に、とりあえずはうんざりした振りでもしてやるのが、ここはヒトカドの礼儀だろうとおれは思っている。 “アーメン” ミアから射撃準備良しの合図がきた。俺は手元に用意していたスタンのリモートを押した。 「アーメン」 言わないと後からどやされるからな…… 橋の欄干に二か所、行動拘束弾(スタン)を仕掛けておいてある。こいつを喰らえば、数秒間奴らの動きを拘束、停止することが可能で…… 耳を抑えてシナリオ通りお客さんは動きを止めらているのをスコープ越しに確認した。 ついでに言えば欄干には気象センサーを取り付けておいたから、そのデータは既にスコープ内のディスプレイにリアルタイムで表示されている。そのデータ諸元を元にプロフェッショナルな俺たちは補正射撃を奴らにくらわすのだ。 俺は2000mショット。ミアは1000mだ。俺達なら寝てても当たる。 俺から見ると橋の手前、射撃姿勢でおそらくミアを探しているであろう男の胸元に一発。重い引き金をソフトに引く---上半身を支点に、体の芯から持っていかれる衝撃を微動だにしない下半身でいなし、次の標的へとライフルを向ける。 その時、無線機が、 “アイン(1)!” ”…………” “ツバイ(2)!” 橋のたもとで哨戒に当たっていた男たちをミアが倒したらしい。 自分の戦果をいちいちリアルタイムで報告してくる。いやらしい奴だ。 俺も小娘に負けじと、2射喰らわす。 1射目の男の斜め後ろ、同じ胸元に一発。すぐ後ろの男に一発、立て続けに打ち込む。 反動の少ないセミオートアサルトライフルを今日は使ったのが吉と出た。射撃距離も短いのでこれでもいけるだろうと思っての事だ。 “トライ(3)!” 4人目、狙いずらいな、寝そべっている奴……いけ!引き金を引く。 瞬間--- ”フィア(4)!“ スコープの中の男が血しぶきを上げて倒れ動かなくなったところで、時間を空けて俺の弾がそいつの頭を打ち抜いた。 “私の方が一人多かったわ。今日のおごりはあなたよ” あ~、無線機越しでも表情が思い浮かぶぜ。 碧の瞳を輝かせて少し上向きの眉を下げ、薄い血色のいい唇を大きく開いて高らかに笑い声をあげるミア。ま、そんなところだろうな。 そもそも、俺は1000m後方にいるんだぞ。おそらくトリガーを引いたのは同時だと思うのだが。 まあ、良いだろう。今日は7万ゴールドだ。多少の贅沢はOKってもんだ。 「カーピー」 俺はミアに了解と返信した。
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