地獄のシチュエーション

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 それから冬休みに入り、私とレインさんはよく顔を合わせるようになった。レインさんが結婚していると知ったのは、一週間後だった。 「なんで、レインは結婚指輪をしてないの? まだここでモテたいんか」  以前から仲良くしていた先輩がレインさんに話しかけていた。レインさんは左手の薬指を見ている。 「階段とかさ上る時に、手すりに当たる感触が苦手でね」  ステージの下手にある階段の手すりは金属製だった。従業員は働くルールとして子どもの安全性のために、わかりやすく手すりを使って階段を上り下りする姿を見せなければならず、私も階段を上る時は手すりを握って階段を上り下りしていた。  私は指輪をつけない主義だからわからないけど、ステージ上で階段の上り下りが多いから擦れる音がして気になるのか。敏感な人なんだと思った。  私は客席の掃除をしつつ、聞き耳を立てていた。会話に入る余裕はない。後10分ほどで次の公演が始まってしまう。  そっか、結婚しているんだ。まぁ、優しそうな人なんだし結婚していてもおかしくはない。 「シェリルちゃん、心配性なんだからあまり刺激しないようにね」  先輩の言葉に私の手は一瞬止まった。  レインさんの奥さん同じ職場の人だったんだ。今度会ってみたいな……当時の私はほんのちょっと興味を抱いていた。そこから修羅場が始まるとも知らずに……。
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