第三話「疾駆」

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 男ふたりの横に、体を折りたたんで着地したのはナコトだった。  鉄塊でも落ちてきたような音を鳴らして、そのとなりに降り立ったのはミコだ。ふたりの輸送を終え、変形を解除したホシカも地面へ舞い降りている。  男ふたりをうしろに残し、少女たちは颯爽とジュズの大群めがけて歩き始めた。  身振り手振りで、周囲にうながしたのはミコだ。 「ホシカ。あなたは飛行型のジュズを撃破しながら、空からイングラムの救出に向かってください」  早足に歩きながら、ホシカはうなずいた。 「作戦どおりだな、くそ重たいミコさんよ。指示は任せたぜ」  まばたきひとつで戦闘機に変形するや、ホシカは空へ消えている。  淡々とミコの指示は続いた。 「エイベル隊長は、けが人の救助と撤退を最優先に行ってください。ナコト、あなたは私といっしょに、地上のジュズとルリエの掃討にあたります」 「お、おう……」 「了解だ」  両手の先端に二挺の拳銃を回転させるや、ナコトは駆け出した。 「メネス」  ミコに呼ばれ、メネスは返事した。 「なにかね?」 「幻夢境では刀剣衛星(ハイドラ)は使えません。かわりにマタドールシステム・タイプZ〝熱砂の琴(イズルハープ)〟を召喚できますか?」 「ああ、それならあの大怪獣に対抗するにはもってこいだね。ただ、すこし時間をもらうぞ。それに、あれの部品にはこちら側の素材も多く使われている。地球側にも協力者が必要だ」  画面をふいた見慣れた物体を、メネスはミコへ投げ渡した。  携帯電話だ。 「召喚術の応用で、現実世界に電話をかけることができる。国際電話は料金が高くつくから、内容は手短にな」 「感謝します」  長刀と電話を両手に、ミコは疾走を開始した。  痛む肩をおさえながら、メネスへささやきかけたのはエイベルだ。 「見事にまとまってるじゃないか、彼女たち。さすがだな、召喚士」 「まあ、おおむね想定の範囲内だ。チームをまとめるため、かわいそうだがイングラムには生贄になってもらった。文字通り、まだ生きてはいるがな」 「縁起でもねえ言い方をしやがる」  苦笑いとともに、エイベルはふたたび剣の輝きを跳ね上げた。 「全軍! 第一部隊はけが人の救助を! 第二部隊は彼女たちを……」  一瞬、エイベルは口ごもった。 「えっと、なんてチーム名だっけ?」  にやりとして、メネスは答えた。 「カラミティハニーズだ」  エイベルの雄叫びに続き、あたりの討伐隊は鬨の声をあげた。 「全軍! カラミティハニーズの援護だ! 勝てるぞ!」
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