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日本、赤務市。
こちらの時間では、いまは真夜中だ。
いびきをかいて眠っていた褪奈英人は、いきなり叩き起こされるはめになった。がたがた震える携帯電話を手探りで掴むと、通話ボタンを押す。
「っせえな。だれだよこんな夜中に?」
〈私です、ヒデト〉
ヒデトのつけた電灯は、そのくせ毛だらけの頭を照らした。
「ああ? ミコ? 変えたのか、ケータイ?」
〈はい、くわしい説明はまたのちほど。いま自宅ですね?〉
頭をかいてあくびしながら、ヒデトは答えた。
「あたりまえだろ。いま何時だと思ってやがる……なんだそっち、やけに騒がしいな。戦争でもやってるのか?」
〈さすが、勘が鋭いですね。大至急、美樽山の研究所へ向かってください〉
「はあ? なんだよいきなり?」
〈ヒデトの〝黒の手〟の能力で〝熱砂の琴〟を送ってほしいんです〉
驚きに、ヒデトは一メートルも跳ね上がった。
「い、いい〝熱砂の琴〟だって!? 組織に無断でか!? ってーかおまえ、いまどこでなにしてる!?」
〈おっしゃったように、戦争です。現在と未来の。詳細は戻ってから報告しますし、組織への始末書も私が書きます〉
「いや簡単に言うけどな、けっきょく研究所に忍び込むのは俺だぜ?」
〈そうですね……あとは一回、あなたの勉強を肩代わりしましょう。あいた時間でデートしません?〉
「あれだけかたくなに宿題の代行をこばんでたおまえが、まさか自分からそれを切り出すなんて。ただごとじゃなさそうだな。どうなっても知らないぞ?」
〈ありがとうございます。その、遠く離れた場所で、ヒデトの声が聞けて嬉しいです〉
携帯電話を肩と耳ではさんだまま、おおいそぎで着替えしながら、ヒデトはほほ笑んだ。
「俺もさ、ミコ」
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