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最低でも三日間は、ジョニー・イングラムの呪力の使用を禁ずる。
マクニール総合病院の医師がだした診断は、それだった。
大召喚の生贄にされて衰弱死の一歩手前まで呪力を奪われたうえ、全身の複雑骨折も看過できない。そんな状態でむりに少女たちの転送を行えば、また命にかかわる。すくなくとも三日間は、絶対安静が必要だそうだ。
そういった経緯で少女三名は、幻夢境でおのおの三日間限定の自由行動をとっていた。
まずはナコトだ。
厚手の防寒着をまとったナコトは、カダス山のあまりの寒さにまだ身を抱いて歯の根を震わせている。あらぶる吹雪にメガネも凍ってしまい、一歩先すら見えない。
その前方をとことこ歩いて先導しつつ、子イノシシのテフは不平を口にした。
「いまにも死にそうなツラしてるなァ、ナコトさんよ。別荘に連れてけって言ったのはおまえだぜ?」
「ななな、なんて寒さなの……こう、なんていうかね、もうちょっと、海でも見える快適な空間を想像してたわ、わたし。うううう」
「インクアノクの海まで、歩いて何週間かかるかわかんねえな」
くしゃみを連発すると、ナコトは鼻をこすりながら愚痴った。
「なんだか猛烈に帰りたくなってきたんだけど。あったかいセレファイスへ」
「そんなこったろうと思って、さきにシャンタク鳥に手紙を運ばせといたぜ。城をきっちり温めとけって内容でな……おら、ついたぞ」
雪山に忽然と現れたのは、縞瑪瑙でできた巨大な城だった。城の外観には、同じ素材でできた小塔が混沌とひしめいている。
ぽっかり闇を開けた入口へ、テフは平然と踏み込んだ。
「お邪魔しま~す……あれ?」
テフに続いて抜き足差し足で入城し、ナコトは目を丸くした。
広大な壁と天井は、薄い靄がかかって見えづらい。いや、それよりなにより……体が汗ばむのを感じ、ナコトは防寒着のボタンを外した。
「あったか……いえ、暑い?」
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
ばかでかいトランペットの大音声に、ナコトは飛び上がった。
風変わりな香の煙を裂いて、大柄な男たちが二列になって堂々と現れたのだ。深い色黒の男たちはそろって頭の兜に明かりのたいまつを燃やし、虹色の絹の腰布いがいは衣服をなにも身につけていない。つまり上半身は裸だ。むきだしの体は筋骨隆々で、油でも塗ったように黒光りしている。
巨漢たちの合間を肩で風切って歩きつつ、テフは満足げにうなずいた。
「おう、帰ったぜ。俺がいない間、不幸な夢の旅人は来たか?」
「来ました! なので! 代わりに受付しておきました! この前腕屈筋群で!」
トランペットを片手に、大男たちは黄金の腕輪のはまったたくましい腕で、思い思いのポーズをとった。腰を抜かしてその場にへこたれたまま、第一印象を口にしたのはナコトだ。
「なんて暑苦しいの……ボディビル大会の決勝戦かなにか?」
一言ごとに構えを変えながら、巨漢たちは順番にナコトへ答えた。
「わたくしどもは!」
「大いなるナイアルラソテフ様の!」
「配下!」
「チーム・ヨガシュと申します!」
「ようこそ! 染夜名琴さま!」
ずれたメガネを直すとともに、ナコトは吐息をついた。
「へへぇ……ほんとにお金持ちの神様だったんだ、テフ?」
「まだ信じてなかったんだな。見直せ。そして恐れおののけ、暗黒神の真の力を」
王室の奥に向かい、テフは玉座に座ろうとした。いや正確には、短い前足と後ろ足でなにごとか暴れただけだ。テフの背丈では、永遠に頭上の王座には届かない。
気のきく配下のひとりに抱っこしてもらい、テフはようやく王座の上に乗った。威厳たっぷりに前足で肘掛けに片肘つきつつ、キンキン声を放つ。
「高身長で優しい外人の彼氏がお好みだったよなァ、ナコトさんよ? お望み通り、高級な外人執事喫茶に連れてきてやったぜ。おい、野郎ども!」
絶え間なくマッスルポーズを変化させながら、ヨガシュたちは元気よく返事した。
「はい! ご主人様!」
「メシと酒の準備だ! フロもわかしとけ! ベッドメイクもだぜ!」
巨大な筋肉の颶風と化して、ヨガシュたちはそれぞれ散開した。
「ボトル入りました!」
「ボトルサンキュー!」
額の変な汗をぬぐいながら、ナコトはしみじみと独りごちた。
「やっぱりホストクラブじゃん……」
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