第四話「交錯」

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 ここはどこだろう?  広大な墓所を思わせる暗い空間に、物言わず立ち並ぶのは無数のジュズだった。本来は時空を越えて幻夢境になだれ込むはずだった恐怖の軍隊は、唐突な門の消失によって休眠状態(スリープモード)をよぎなくされている。  もよりの一室、窓の外を眺めてたたずむのはひとつの人影だ。とめどなくガラスをたたく吹雪の破片に、その深遠な瞳がたたえるのは絶望か、はたまた希望か。 「ホーリー様」  いきなり自動扉を開け、部屋に駆け込んできたのは一体のジュズだった。耳障りな砂嵐の混じるたどたどしい人語で伝える。 「久灯瑠璃絵(くとうるりえ)は失敗しました」 「知っている」  一ミリも姿勢を崩さず、ホーリーと呼ばれた人影はうなずいた。 「ついさっきまで〝瞳の蒐集家(ズシャコン)〟を遠隔操作していたのはわたしだからね。あの瞬間での突然の召喚術は意外だった。思わず負けてしまったよ」  めまぐるしく瞳の光を回転させながら、ジュズは続けた。 「あの時代に発生した〝カラミティハニーズ〟という要因はそうとう厄介です。前例がありません。先も読めません。どう対処しますか?」  かすかに人影は首をひねった。 「おかしいな。わたしの記憶している時間軸には、そんなものは存在しない。どうやら我々の時間干渉の影響で、あの時代に想定外(イレギュラー)なものが生まれてしまったらしいね」  人影の見つめる景色は、氷河期をむかえた都市の一面の雪化粧だった。  幻夢境と地球が巻き起こした戦争によって世界は衰退し、新たなる〝星々のもの〟の勢力に地球は侵略されたのだ。生命維持・気象操作・防衛等をかねたひとにぎりのドームの内外で、いまもまだ抵抗勢力(レジスタンス)とジュズの攻防は続いている。  窓の外を見つめたまま、人影は告げた。 「つぎはわたしが行く」  ホーリーは静かに拳を握りしめた。  カラミティハニーズは帰ってくる…… 【スウィートカース・シリーズ続編はこちら】 https://estar.jp/users/479808250
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