3897人が本棚に入れています
本棚に追加
彼が千葉航空機株式会社を起こし社長に就任したのが六年前。その一年後に私は新卒で一社員として千葉航空機株式会社に就職した。
志望理由はなんてことない。千葉重工業から独立した新しい会社というのにまずは興味を引かれ、それが航空機業界とあって採用試験を受けたのだ。
友人の実家が同系統の業界だというのも大きかった。
結果無事に内定をもらい、その配属先に驚いた。どういうわけか、私は社長室に赴き入社式でさえ遠目にしかお目にかからなかった社長と対面する形になったのだ。
同じ二十代とは思えないほどの落ち着きぶりと威圧感は今まで出会ったことがなない人種だ。
すらりと長い手足を際立たせている高級スーツに身を包み、精悍な顔立ちは一度見たら忘れられない。その彼から秘書として務めるよう告げられたのだ。
どうして自分が選ばれたのか理解できない。それは顔に出ていたのか、愛想の欠片もなく社長である千葉明臣は冷たく言い放つ。
『君が採用試験で一番優秀な成績だった。面接の受け答えや論述試験も理知的で機転が利いていたし、この業界に対する勉強も熱心だ』
あまりにも淡々とした言い方に褒められていると受け取っていいのか悩む。そんな私に彼は挑発的な笑みを浮かべた。
『……心配しなくても使えないと思ったらすぐに変える』
彼の言葉は確実に私の闘争心に火をつけた。実際、大きなプロジェクトを任されていた社員が社長の一存で突然解任されたと聞いていた。
実力主義でこの人に余計な情などない。なら突き進むだけだ。元々負けず嫌いな面のあった私は絶対に社長に認めてもらう仕事をしようと決意した。
最初のコメントを投稿しよう!