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『社長、次の会議までまだ余裕がありますから、少し休んでください』
『必要ない』
思いきって提案したものの彼はすげなく返してきた。けれど私も簡単には引かない。
『あら。その顔色の悪さで先方の前に出たら、肝心の業務提携の内容についてよりも先に体調を心配されますよ? 不安要素はなくしておくべきでは?』
立て板に水で続けると社長は押し黙る。しばらく私の顔をじっと見て視線を逸らした。
『十五分経ったら、呼びに来てくれ』
内心でガッツポーズをして、私は笑顔を向ける。
『承知しました。こちらもどうぞ』
蒸しタオルとホットレモンを差し出すと、社長は渋々受け取った。社長の仮眠室を化したプライベートルームに足を進める彼を見送る。
『早希ちゃん、すっかり社長の扱いがお手の物にあってきたわね』
社長が隣室に消えた後、私たちのやりとりを見ていた君島さんが笑いながら声をかけてきた。
『いいえ。社長にとってはお節介以外のなにものでもないと思うんですが……』
『いいの、いいの。最終的に早希ちゃんの言うことをきくってことは、彼もあなたが正しいと思っているからよ。会社としてはまだ新しいし、社長も焦っているのかもしれないけれど……』
社長がどういう思いで千葉重工業から独立したのかは、少しだけ聞いた。彼が必死なのは、お父さんに対抗というより、認めてほしい気持ちがあるからなのかもしれない。
その考えに至って私は首を横に振る。深入りするのは危険だ。彼もそれを望んでいない。社長を心配する気持ちは秘書としてで、それ以上でもそれ以下でもない。
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