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社長を知るたびに彼に抱いていた印象は変化していく。最初は冷徹で仕事だけが大事なのかと思っていたけれど実際はそうじゃなかった。
実はプロジェクトから突然はずされた社員は、奥さんが重い病気で入院することになり妻のそばにいたいという本人の希望を尊重したものだった。
周りに心配や気遣いをさせたくないと理由は伏せ、社長は彼を比較的時間に融通の利く部署へ異動させた。
その実情を知ったとき私はつい眉をひそめた。事情を知らない者からすると、社長が冷徹で人情味のかけらもない印象を与えるだけだ。実際に私もそう思っていたから尚更。
『いいんだ。なにをしても好き勝手言う奴はいる。わかってくれる人間だけわかってもらえれば十分だ』
社長は誰よりも会社を大事に思っている。それは社員一人一人を大切にするのと同じなんだ。それは直接ではなくても彼のそばで、この会社で働いていたら自然と感じられる。
ああ、だから彼は社長としてやっていけるんだ。千葉重工業の御曹司や、そういった肩書きは関係ない。先を見据える力と決断力、会社は人が作るという考えを持っているからなんだ。
秘書の意見だからと無下にもしない。頑なな面がある一方で彼は人の話もちゃんと聞く。そうやって社長の様々な面を知っていくたびに惹かれそうになる自分がいて、心の中で叱責しては自省した。
自分の立場を勘違いしてはいけない。恋愛に現を抜かす前にもっと仕事をできるようにならないと。彼が求めているのは優秀な秘書だ。
そうやって感情を押し殺し彼の秘書を務めて三年目になる頃には、社長には結婚を考える相手がいた。
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