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疑問
「言葉と愛って関係してると思う?」
唐突な質問だった。
「関係してるんじゃないか?だって愛を伝えるのは言葉だろ」
”なんの考えもなく、なんの毛なしに答えた俺は馬鹿だった。あの時もっとお前の言葉に想いをよせていたら、もっとマシな回答が出来たかもしれない、もっと言葉を愛していれば。
愛することを知らない二十歳の新成人。愛することを諦めた十八歳の受験生。世界のシンプルな構図に騙された混沌とした主観が、迷える人間の青春を嬉々として崩していった。”
「ねぇ真剣に答えてよ!真面目に話してるんだから」
「俺はいつでも真面目だよ。勉強に必死なお前と違ってな」
「付き合ったこともないくせに」
「片思いくらいはあるわ!そういうお前はどうなんだよ?」
「私はねぇ〜。分かんない、」
「はぁ!?」
「だって好きな人いないし」
「いや、今まで一人くらいはたいただろ」
「いたことないよ。だってずっと一人なんだし」
彼女の容姿は決して美少女でもなく、ブサイクでもなく、街に散らばる女性達となんら変わらない、独りの人間。だがいじめを受けているわけでもなく、差別されている訳でもない。
彼女が一人で生きていることに、疑問は常々感じていた。
「じゃあなんでそんなこと思ったんだよ」
返答に時間がかかった。
「私の両親が見つかったんだって」
「お前捨てられたっていってなかった?」
「うん、私が一歳の時泣き声が聞こえて出てみたら、
手紙と大金が入った通帳を持った私が施設の前に捨てられてたって聞いてる」
「大金ってどれくらい?」
「私の養育にかかるお金くらい」
「手紙の内容は?」
「身長、体重、離乳食についてとか」
「しっかりしてるな」
「うん、それなのになんで私を捨てたのか理由を聞きたくて、
この事を聞いた高一の春に、お願いして探してもらってたの」
「いつ見つかったって?」
「今年の春」
「結構時間かかったな」
「それでね、私が会いたいって言っても会えなかったのに、
今度は向こうから会いたいって連絡が来たって」
「唐突だな」
文字が震えている様に見えた
「それで私、分かんなくなっちゃって。
相手がどんな人かも教えてくれないし、なんで面会を拒んでたかも知らないし、なんで急に会う気になったかもわからないから。
でも会ってみたい、言葉を交わしてみたいから、」
彼女は強かな女性だった。こうして言葉を交わしていても、俺にはわからない苦悩があって、一筋縄では理解できない考えを持った人間だ。
こうして初めて見る、恐怖を持った彼女を前に、俺は戸惑いを隠そうとした。
「とりあえず会ってみたら?そうしないと何も始まらないでしょ」
特色ない返答をした
「もう会った」
いつも隠し事の多い彼女だが、今日は会話の中での隠し事が特に多かった。
自分の弱みを見た俺が、どう反応するかを楽しんでるかの様に。
「それで、どうだった?」
「分かんない」
「何が?」
「向こうは嬉しそうだったよ。『学校はどうだ?』とか『勉強はしてるか?』とか、普通の親子みたいな会話してきたよ」
「捨てた理由とかは聞かなかったのか?」
彼女の感情がわからなかった。喜びも感じられない、憎しみも感じられない。教科書かの様に事実だけを伝えて、彼女の真意は見えなかった。それでもなんとか引き出そうと、俺は彼女の傷をえぐる様に質問していく。
「聞いた」
「なんだって?」
「『昔のことは忘れよう』だって」
「煮え切らないな。食い下がらなかったのか?」
「『ちゃんと教えて!!』って叫んだら教えてくれた」
「『私達は子供を作るつもりは無かった』『避妊はしていたがたまたま出来てしまっった』って」
「なんでそのまま一緒に暮らせなかったんだ?」
「『子供を育てる体力も無いし、気力も無い』『でも堕すのは可哀想だから、お金をあげて施設に届けよう』って」
「自分勝手だな。怒ってないのか?」
不思議だ。
ここまで身勝手な持論を聞いていながら俺より冷静にいられるのが。
「ないよ」
「なんで?」
「だって他人だし。あの人たちの言葉には自責の念と、謝罪の気持ちが詰まってた」
「それでも・・・」
やはり彼女は強かだ。彼女の言葉が俺には全く理解できなかった。
「もう寝るね!おやすみ!」
「わかった、おやすみ」
彼女が生まれて十八年、親の愛を受けたのはたった一年。それから十七年。彼女はどんな人生を歩んできたのだろう。まだ知り得ない彼女の、核心に迫る出来事が起きたのかもしれない。
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