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「ボディガード?」
素っ頓狂な声をあげた矢島さんの目が、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「はい。政府の要人のボディガードになってほしいってことです」
「すげえな。そんなことってあるんだなあ」
矢島は、「すげえなあ」と繰り返す。
休憩が終わり、俺と矢島さんはピストンの掃除を再開していた。まるで軍艦の主砲みたいなピストンを丁寧に拭いていく。
「でも、そんな仕事だったら給料も良いだろうなあ。将来も安泰だ。それで、いつからその仕事をやるつもりなんだよ」
矢島の言葉に俺は「いや」と首を振る。
「その、ボディガードの仕事、断ろうと思っているんです」
矢島が作業の手を止め、顔だけこちらを見る。
「お前、何を言ってんだ」
彼の口は、アゴが外れそうなくらい開いていた。
「そんな仕事、今逃したら、一生やって来ねえぞ」
「まあ、そうなんですけど。でも、この仕事を放り出すのも、悪いというかなんと言うか」
「バカ、お前、こんな仕事に未来なんてねえよ。今は仕事があっても、いつ仕事がなくなるか分からねえしよ。そんなことより、さっさとボディガードでも何でも受けるべきだって」
「はあ、まあ、うん」
俺は、曖昧な返事しかできなかった。そう、そんなことは分かっている。分かっているけど、それだけじゃないんだ。
しばらく黙っていると、矢島は大きくため息をついてから、作業を再開した。それ以上は、俺たちに会話はなかった。
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