1.炭酸

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1.炭酸

「雨ばっかりだなあ」 「梅雨だから、こんなもんだろ」  降り続く小雨を見ながら、三好(みよし)たちが呟いている。  昼食後の休み時間。  雨だからと外に出る気力もなく、なんとなく教室で過ごす。  進級して3年生になり、丸3カ月が過ぎた。  清涼学園高等学校は、2年生から進路別にクラスが分かれるので、2、3年は持ち上がりだ。ちなみにおれは文系、(たくみ)は理系クラス。おかげで学校で顔を合わせる機会は、ほとんどない。そんなことは、ずっとわかっていたことだ。そうなんだけど。 「なーんか、さびしいよね」  ぽろっと口に出た言葉に、外を見ていた多希(たき)と三好がくるりと振り向いた。  怪訝な顔をする三好に、心配気な視線を投げてくる多希。 「⋯⋯(ゆい)、何か悩みがあるのか?」 「いや、悩みってほどのもんじゃないんだけど。もうじき、期末だしさ⋯⋯」 「げっ! 保坂、いきなりそれ言う⋯⋯」  三好の眉が曇る。そう言う本人は、休み時間もしっかり参考書を開いて勉強に励んでいる。  清涼学園高等学校には付属大学があり、大多数がエスカレーター式に進学する。でも、中にはわずかに外部進学を希望する者もいて、三好はその外部進学組だ。目標のあるやつは強い。三好の参考書を何となく見つめながら、おれは机に突っ伏した。  多希が久しぶりに一緒に帰らないか、と言う。  期末前で部活はどこも一週間休みだ。 「⋯⋯いいよ。あ、ちょっと待って。のど乾いたから、炭酸飲みたい。すっとするやつ」 「珍しいじゃん。苦手なんじゃなかったの?」 「さすが幼馴染みだわ。今も苦手だけどさ、むしむしする日は飲みたくなるんだよ」  校内の自販機は外のものより少し安いから、と二人で食堂脇の自販機に向かう。  3台並んだ自販機の中身を吟味して選ぶ。 「あ、これ! これがいい!! レモンスカッシュ」 「ふーん。おれ、アイスコーヒー」  ガコン、ガコンと続けて出てくる缶を取って、勢いよくプルタブを開ける。  ぷしゅ、と音がしてしゅわっと泡が出てきたので慌てて口を付けた。  ごく、ごくと喉を鳴らして飲めば、胃の奥まで冷たさがしみていく。
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