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「たく⋯⋯み?」
目の前からブリザードが吹いてくる気がした。
噛みつかれた。
がぶっと。
「ん!んーっ!!」
巧の唇から熱い舌が忍び込んでくる。
ゆっくり絡め合って吸い上げて、体中に熱い熱が走っていく。
お互いの唾液が口の端から零れて銀の糸になる。
体中から力が抜けて、口の中は嬲られるままだ。
キスで頭の中がぼうっとし始めた頃に、巧の唇が離れた。
「唯のばか」
「⋯⋯なんで」
「あいつの名前なんか出すな」
「ん」
だって多希は幼馴染じゃん、と言うのは止めた。
「⋯⋯巧、怒ってる顔もかっこいい」
「はあ?」
巧は本当に真っ赤になった後、いきなりおれから体を離した。
「唯、両手、出して」
おれは頷いて、両方の手のひらを並べて差し出した。
目をつぶるのはお約束。大抵、ぽんと、手の平に花が一つか二つ乗せられる。
ぱらぱらぱらぱら。
小さな花が、手の中に降ってくる。
目を開けたら、赤、白、黄色。
くるりと内巻きの花びらを持った花たち。
「これ⋯⋯なんて花?」
「クロッカス」
「クロッカスって、母さんがプランターに植えてた。何だっけ。春の花?」
「そう。1月31日。今日の花なんだ」
「え、巧。さっきまで作ってた中に、この花なかったよね?」
「今日、唯が来るから見せようと思って作っておいた」
サプライズかよ!!!
「あ、ありがと」
さすがに、照れる。
両手の中で咲く花たちはどこかで見たような形だ。
「百合と作り方は、ほぼ同じなんだ。花の巻き方が外巻きか、内巻きかってだけ」
花の一つを手に取って、巧が広げて見せてくれた。
「花言葉は?」
「え?」
「いつも教えてくれるじゃん」
途端に、巧の目がうろうろとさまよう。
「えっと、『青春の喜び』」
「それだけ?なんか、母さんが言ってたのと違うような。もっと⋯⋯」
なんだか追い詰められた感じの言葉だったぞ。
「後は、『切望』」
「あ、それ!」
巧が困ったような顔をしている。
──切望。心から強く望む。
「たくみ?」
「俺は、心が狭い奴だなって思う。唯が他の奴に笑うのも、他の奴の名前呼ぶのも嫌なんだ。そんなこと言ってるの馬鹿馬鹿しいってわかってるんだけど」
──俺だけを見ていてほしいんだ。
呟くような言葉に、心がぎゅっと掴まれる。
ばっかだな、巧。
「ずっと巧しか見てないじゃん」
花を胸に抱いたまま巧に寄りかかれば、額に口づけられた。
「ねえ、たくみ。巧の作る花はさ」
⋯⋯おれへの気持ちなんだよね。
耳元で囁けば、巧がおれの体に手を回す。
普段、無口な巧が伝えてくれる言葉。
何度も柔らかく唇が重なる。
外はまだ冬の風が吹くけれど。
腕の中の紙の花たちが、あたたかな春を告げていた。
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