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2.依頼
「それそれ。ちょっと気をつけた方がいいと思う」
「⋯⋯何を?」
しっかり者の三好に言われると、なんだか心配になってくる。何に気をつけろって言うんだ。怪訝な顔をしていたら、多希がため息をついた。
「俺が気をつけておくわ。ゆいじゃ、どこまでわかってんのか怪しいし」
「多希。お前は、それこそ『神』に殺されないようにしろよ」
多希が、はいはい、と軽く流しながら席に着く。首をかしげながら、おれはチョコパンをぱくりと頬張った。
今年の美術部は忙しい。
何が忙しいって、バレンタインが近いからだ。
12月に入って少し経った頃だ。家政部部長、結城から電話があった。
「突然で悪いが、バレンタインの話なんだ。うちは、今年もバレンタインに合わせて特別注文を受け付ける。今年はそのパッケージデザインを美術部に頼みたい」
うちの家政部は、男子校とは思えないほど活動が盛んだ。
ちなみにおれは、この学校に入って初めて、家政部と言う部活を知った。料理班と手芸班で構成され、手仕事を愛する男子たちが集っている。
「結城、何でいきなり、美術部に依頼?」
「うん、それなんだけどさ。チョコはずっと試行錯誤を重ねてきて、ほぼ作るものも決まってるんだよ。でも、この間のミーティングで、何か足りなくねぇ?って話になって」
今までは、市販のラッピング材を使ってたいたが、もっと個性的なものにしたい。
──清涼学園ならではのオリジナル性が欲しい。それが、部員の統一見解だった。
大抵の部活は、年の初めに年間活動計画を決めている。予算の関係もあるし、部員それぞれの予定もあるからだ。
美術部も年度半ばで特別な活動を受け付けることはないのだが、結城の話には惹かれた。美術部は集団で発表することはあっても、基本的には個々の活動だ。でも、たまには皆で何かやってみてもいい。
他の部とのコラボ活動は初めての試みだけど⋯⋯。考え込んでいるおれの耳に、 結城の言葉が響く。
「今年の文化祭の看板、すごくよかった。家政部の部員からも好評で、それならいっそ美術部にデザインを頼んでみようって話になったんだ」
文化祭の看板作成は、毎年美術部の担当だ。
ベニヤ板にペンキで絵を描いていくのだが、予算も少ないし、場所もない。中庭にブルーシートや古新聞を敷いて、皆で必死で描いた。 そんな思い出の作品を気に入ってくれたことが嬉しい。
「わかった。とりあえず一度、美術部に話しに来てほしい」
電話口から、結城の弾む声が聞こえた。
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