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6.何故
三人で、チョコケーキを覗き込んでいたところに、がらりと戸が開く。
「保坂あ!お迎え!!」
教室の入り口の前に立っていたのは、巧だった。
おれは鞄と紙袋を持って、巧の待つ廊下に向かった。
「ゆい」
多希がおれの名を呼ぶ。振り返れば、にっこりと笑う幼馴染。
「また明日な」
「うん、また明日」
三好には、さっさと帰れとばかりにしっしっと手を振られた。ひどい。
夕焼けを眺めながら、巧と二人で学校前の坂を下る。少しずつ日は伸びているけれど、すぐに夜がやってくる。
「今日は巧の部活が休みだなんて、ラッキーだったな」
嬉しくて笑いかけると、巧も笑顔を返してくれる。
毎日LINEしてるけど、最近巧はバスケの試合が続いて忙しい。朝も帰りも時間が合わず、一緒に過ごせなかった。
何となく、巧に元気がないような気がする。気のせいかな、とじっと見つめたら視線が動いた。
巧は、おれの手にした紙袋を見つめている。
「唯、それ⋯⋯」
「ああ、これ?家政部の子が食べてくれって」
「家政部?」
「1年生の佐田って知ってる?三好の話だとすごい子みたいなんだ。パティシエに交じってコンクールで入賞したこともあるんだって」
おれは、昼休みにあったことを話した。
巧は、ずっと黙っている。
「デザインの参考にしてくれってことなんだろうけど、今日は部活なかったからさ。明日、美術部に持っていこうかなって思ってる」
巧に見せようと紙袋を持ち上げた手を、いきなり掴まれた。
「巧?」
おれの手首をぎゅっと掴んだまま、巧は大股に、どんどん歩いて行く。角を曲がってすぐに、いつも寄っていたマンション横の公園がある。足がもつれそうになりながらベンチの前まで来て、巧は振り返った。
「たくみ⋯⋯なに?どうし⋯⋯」
言いかけたところに、腕をひかれた。
眉が上がり、何か言いたげな瞳がすぐ目の前に迫る。
あっと思う間もなく、少し乾いた唇がおれの唇と重なった。
掴まれた手が痛い。痛いけど、熱い。
巧に触れている唇が熱を持って、体中が甘く痺れた。
口づけが深くなって、少し開いた場所から巧の舌が忍び込む。久しぶりの感覚に、思わず体が仰け反りそうになれば、巧がおれの腰を強く抱き寄せる。
「んッ!あ⋯っ」
手が痛い、そう言いたかったのに。
巧の舌がおれの口の中を這い回ると、あっという間に頭の中が白くなる。
──たくみ、たくみ、巧。
自分の頭の中の全てが消えて、目の前の男のことしか考えられなくなる。口の中に溢れる唾液ごと飲み込まれそうになって、体が震えた。
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