11.想い

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11.想い

   怒られるな、と結城は苦笑いした。   美術室に戻ったら、もう御園はいなかった。  ちょうど弥彦が、パンジーのデザインの下絵を見ていたところだった。 「あのさ。弥彦。これ描きながら、何考えてた?」 「えっ?⋯⋯気持ち、ですかね。チョコ渡して満足、じゃなくて。想いを受け止めてほしいって言うか、返してほしいって言うか。うーん、口にすると、ちょっと」  弥彦がおれから目を背けた。耳まで赤くなってる。 「⋯⋯そうか。そうだよな。弥彦、ありがと」  家に帰って、しまってあった折り紙を取り出した。  必死で検索した折り方の動画を見る。  青い折り紙を一枚。丁寧に端と端を合わせて、折り目をつけて。画像を見ては止めるのを繰り返した。  おれは巧みたいに上手に折れないから、何度も折り直して、嫌になって。ぐしゃぐしゃになったものは捨てた。  御園の言葉を思い出した。 「保坂さあ、折り紙の花折る時、どんな気持ちか考えたことある?」  花をもらって嬉しかった。でも、花を折ってくれる気持ちを考えたことは⋯⋯なかった。  同じように気持ちを返してほしい。誰だってそう思うはずだ。  巧の部屋にあった、たくさんの紙の花。  おれは、どうだった?⋯⋯巧の想いに、応えられてた?    紙の花を折る間。ずっと巧のことを考えていた。  巧も、おれのことを考えながら折ってくれてたのかな。  時間はかかったけど、ようやくパンジーが出来た。  おれの花は、巧の花のように小さくも、きれいでもない。それでも、ずっと巧を想って折った。  ──不細工でもいい。巧に渡したい。    おれは、巧にLINEを送った。「明日の昼休みに、中庭に来て」と。  返信はなかったが、既読はついた。  翌日の昼休み。  おれは、中庭にぽつんと立っていた。  巧は来ないかもしれない。落ち込みそうな気持ちをなんとか奮い立たせる。  曲がったら嫌だから、小さなクリアファイルに二つの花を入れた。そっと開けて眺めていると、息を切らして巧が走ってくる。 「ごめん。飯沢に教材運べっていきなり言われて⋯⋯」  思わずじわりと涙が浮かぶ。泣いている場合じゃない。 「たくみ、巧、これ!」  おれは二つの花を巧に見せた。  巧は目を見開いた。涼し気な瞳が何度も瞬きを繰り返す。 「巧のは結城に借りたんだけど、こっちは、おれが作ったんだ。手、出して」  言われた通り、巧は両手を揃えて差し出した。  おれは、手の平に紙の花を乗せる。 「⋯⋯なんで巧が怒ったのかは、今もわかんないよ。でも、花は自分で折ってわかった。おれ、もらってばっかりだった。折り紙も、巧の気持ちも」
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