1307人が本棚に入れています
本棚に追加
11.想い
怒られるな、と結城は苦笑いした。
美術室に戻ったら、もう御園はいなかった。
ちょうど弥彦が、パンジーのデザインの下絵を見ていたところだった。
「あのさ。弥彦。これ描きながら、何考えてた?」
「えっ?⋯⋯気持ち、ですかね。チョコ渡して満足、じゃなくて。想いを受け止めてほしいって言うか、返してほしいって言うか。うーん、口にすると、ちょっと」
弥彦がおれから目を背けた。耳まで赤くなってる。
「⋯⋯そうか。そうだよな。弥彦、ありがと」
家に帰って、しまってあった折り紙を取り出した。
必死で検索した折り方の動画を見る。
青い折り紙を一枚。丁寧に端と端を合わせて、折り目をつけて。画像を見ては止めるのを繰り返した。
おれは巧みたいに上手に折れないから、何度も折り直して、嫌になって。ぐしゃぐしゃになったものは捨てた。
御園の言葉を思い出した。
「保坂さあ、折り紙の花折る時、どんな気持ちか考えたことある?」
花をもらって嬉しかった。でも、花を折ってくれる気持ちを考えたことは⋯⋯なかった。
同じように気持ちを返してほしい。誰だってそう思うはずだ。
巧の部屋にあった、たくさんの紙の花。
おれは、どうだった?⋯⋯巧の想いに、応えられてた?
紙の花を折る間。ずっと巧のことを考えていた。
巧も、おれのことを考えながら折ってくれてたのかな。
時間はかかったけど、ようやくパンジーが出来た。
おれの花は、巧の花のように小さくも、きれいでもない。それでも、ずっと巧を想って折った。
──不細工でもいい。巧に渡したい。
おれは、巧にLINEを送った。「明日の昼休みに、中庭に来て」と。
返信はなかったが、既読はついた。
翌日の昼休み。
おれは、中庭にぽつんと立っていた。
巧は来ないかもしれない。落ち込みそうな気持ちをなんとか奮い立たせる。
曲がったら嫌だから、小さなクリアファイルに二つの花を入れた。そっと開けて眺めていると、息を切らして巧が走ってくる。
「ごめん。飯沢に教材運べっていきなり言われて⋯⋯」
思わずじわりと涙が浮かぶ。泣いている場合じゃない。
「たくみ、巧、これ!」
おれは二つの花を巧に見せた。
巧は目を見開いた。涼し気な瞳が何度も瞬きを繰り返す。
「巧のは結城に借りたんだけど、こっちは、おれが作ったんだ。手、出して」
言われた通り、巧は両手を揃えて差し出した。
おれは、手の平に紙の花を乗せる。
「⋯⋯なんで巧が怒ったのかは、今もわかんないよ。でも、花は自分で折ってわかった。おれ、もらってばっかりだった。折り紙も、巧の気持ちも」
最初のコメントを投稿しよう!