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2.幼馴染み
「ふわー! 久々!! ん?」
多希が、じっとこちらを見ていた。顔が赤くなっている。
なんだろ、あ、シャツのボタン外れすぎだわと止め直した。
「⋯⋯どしたの、多希? 顔が赤いけど、まさかそれ、ホットコーヒーじゃないよね?」
「え? あ、いや、これはアイス! アイスコーヒーだから!!」
多希は早口で言って、アイスコーヒーを一気に飲んだ。⋯⋯かと思うと、ゴホゴホと咳込んでいる。
おれは多希の背中を黙ってさすった。
しっかり者の幼馴染みでも、たまにはこんなこともある。
缶のレモンスカッシュを三分の二まで飲んだところで、限界を感じた。
咳がおさまって、空き缶をゴミ箱に投げ入れた多希をそっと見る。
「多希さー、まだ飲めそう?」
「は?」
「やっぱさ、炭酸はあんまり得意じゃなくて。あとちょっとなんだけど⋯⋯」
持っていた缶を見せると、多希は目を見開いておれを見た。何か言いかけて口ごもる。
「あ、嫌だった? ⋯⋯ごめん。そうだよな、もうガキじゃないし」
子どもの頃、おれは牛乳でもジュースでも、味のついた飲み物があまり得意じゃなかった。飲み切れなくて困っていた時は、多希がいつも引き受けてくれた。
だからって、高校生にもなって甘えているのはおかしいよな。
急に恥ずかしくなって、多希に申し訳なくなる。
「捨ててくる。ちょっと待ってて。⋯⋯えっ!」
多希がおれの手から、さっと缶を取った。
缶の口のところを一瞬見つめた後、唇をつけて一息に飲み干す。喉仏が動く姿が、何だかすごく男っぽい。ふー、と息をついて口を手の甲で拭う。
そんな姿も様になっていて、多希が密かに下級生に人気があるのがよくわかる。
「ごめん、多希。ありがと」
「いや、別に」
「多希はさー、なんか、そういうとこ。さりげなくカッコイイよね」
「──ッ!!」
多希が投げた空き缶は、ごみ箱の角に当たって跳ね上がり、遠くまで転がっていった。多希は黙って立つと、缶を拾いに走って行く。
おれの幼馴染みはイケメンだなあと、すっかり嬉しくなって後ろ姿を眺めた。
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