4.好き?

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4.好き?

「はい、巧くん! 今日はお代はいいから」 「えっ、でも、悪いです」 「いつも贔屓(ひいき)にしてもらってるからね。いいもの見せてもらったし」 「いいもの?」  思わず漏らすと、男性はおれだけに聞こえるように声を潜めた。 「巧くんはよくお家のお使いで来てくれるけど、自分から花を頼みに来てくれたことなんてないんだよ。あんな顔も見たことないし、今日は特別!」 「⋯⋯特別」  振り返ると、巧は少し眉を上げて怒ったような顔のままだった。 「ねー、巧。おなかすいた」  花屋を出てから、二人で商店街を黙々と歩く。雨は段々上がってきて、空も明るくなってきた。巧の足がぴたりと止まる。 「何か食べて行こうよ。もうお昼過ぎてるし」  目の前にファーストフードの赤と黄色の派手な看板が輝いている。巧の鼻先に思いきり顔を近づけて見つめると、巧は仕方ないとばかりに頷いた。  窓際の隣り合わせの席で、外を見ながら座った。向かい合わせだと何だか気まずい気がしたから。巧が怒っている理由が、さっぱりわからない。  バーガーとポテトを食べて、隣の巧をちらちら眺める。  巧は顔もいいし、食べ方もきれいだ。バーガーを包んでいた紙をぐしゃぐしゃに潰さずに長い指できれいに畳む。その姿に見とれて呟いた。 「巧の、そういうとこ好き」  巧はぴたりと動きを止めた。 「⋯⋯俺は、唯のその素直なとこが」 「素直なとこが、なに? 好き?」  うっ! と呻くのが聞こえたが、構わずに続けた。声だけは潜めて。 「⋯⋯好きでしょ?」  巧が黙ってるから、だんだん悲しくなってきた。  折角久しぶりに会って、一緒にご飯食べてんのに、何で怒ってんだよ!!!  泣きたいような、叫びたいような気持ちになって、鼻の奥がツンとする。  おれはうつむいたまま、だいぶ残っているオレンジジュースをちびちびとすすった。 
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