5.誕生日

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5.誕生日

 隣から巧の綺麗な指が伸びてきて、トレイの端に何かを置く。  涙で滲んだ目をこすった。  白い紙ナプキンが、花に変わっている。 「⋯⋯朝顔」  おれのトレイの上は巧と違って、紙はぐしゃぐしゃ、ポテトの端切れも転がっている。  その端で、真っ白な花が咲いていた。  巧を見ると困ったような顔で、ごめん、と言った。  巧は足元に置いていた朝顔の入った袋を持ちあげた。 「これ、唯へのプレゼントなんだ。お誕生日、おめでとう」 「⋯⋯巧、あ、ありがと」  そう、今日は七夕で、おれの誕生日だ。だから、試験期間だろうと何だろうと、おれは巧と過ごしたかった。 「嫌な態度取って、ごめん。俺は、ちっとも反省がないな」 「⋯⋯ん。巧は、何で怒ってんの?」 「くだらない話なんだ⋯⋯」  無理やり巧に吐かせれば、先週、多希と一緒に行った自販機での話を持ち出してきた。偶然、巧も飲み物を買いに来ていたらしい。 「唯、自分の分は自分で最後まで飲むべきだと思う⋯⋯」 「そ、それはそうだけど」  まさか、そんなことで巧の機嫌が悪くなるなんて思わなかった。高校生にもなって恥ずかしい奴だと思われたんだろうか。 「さすがに、この年になって情けなかったとは思っています⋯⋯」  トレイに載っているジュースの残りは、こっそり捨てよう。氷を捨てる振りをしながら、バレないように。巧がおれの視線に気づく。 「⋯⋯それ、中身残ってる?」 「え、えっと⋯⋯」  巧はジュースを持ち上げて、おれを見た。 「もう、いらない?」 「⋯⋯うん」  巧は迷わずストローを口にした。巧の唇がストローに触れると、胸がどきんと鳴った。  え、あれ? これって⋯⋯。  ちょっと待って。もしかして⋯⋯。  ジュースをすぐに飲み終わった巧が、おれを見て言った。 「⋯⋯唯、俺の機嫌が悪かったわけ、わかった?」 「た、ぶん。わかったと⋯⋯思う」  巧の唇ばかり見そうになって、思わず顔を逸らした。  下を向いていると、覗き込むようにして、巧はおれにキスをした。
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