1292人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
5.誕生日
隣から巧の綺麗な指が伸びてきて、トレイの端に何かを置く。
涙で滲んだ目をこすった。
白い紙ナプキンが、花に変わっている。
「⋯⋯朝顔」
おれのトレイの上は巧と違って、紙はぐしゃぐしゃ、ポテトの端切れも転がっている。
その端で、真っ白な花が咲いていた。
巧を見ると困ったような顔で、ごめん、と言った。
巧は足元に置いていた朝顔の入った袋を持ちあげた。
「これ、唯へのプレゼントなんだ。お誕生日、おめでとう」
「⋯⋯巧、あ、ありがと」
そう、今日は七夕で、おれの誕生日だ。だから、試験期間だろうと何だろうと、おれは巧と過ごしたかった。
「嫌な態度取って、ごめん。俺は、ちっとも反省がないな」
「⋯⋯ん。巧は、何で怒ってんの?」
「くだらない話なんだ⋯⋯」
無理やり巧に吐かせれば、先週、多希と一緒に行った自販機での話を持ち出してきた。偶然、巧も飲み物を買いに来ていたらしい。
「唯、自分の分は自分で最後まで飲むべきだと思う⋯⋯」
「そ、それはそうだけど」
まさか、そんなことで巧の機嫌が悪くなるなんて思わなかった。高校生にもなって恥ずかしい奴だと思われたんだろうか。
「さすがに、この年になって情けなかったとは思っています⋯⋯」
トレイに載っているジュースの残りは、こっそり捨てよう。氷を捨てる振りをしながら、バレないように。巧がおれの視線に気づく。
「⋯⋯それ、中身残ってる?」
「え、えっと⋯⋯」
巧はジュースを持ち上げて、おれを見た。
「もう、いらない?」
「⋯⋯うん」
巧は迷わずストローを口にした。巧の唇がストローに触れると、胸がどきんと鳴った。
え、あれ? これって⋯⋯。
ちょっと待って。もしかして⋯⋯。
ジュースをすぐに飲み終わった巧が、おれを見て言った。
「⋯⋯唯、俺の機嫌が悪かったわけ、わかった?」
「た、ぶん。わかったと⋯⋯思う」
巧の唇ばかり見そうになって、思わず顔を逸らした。
下を向いていると、覗き込むようにして、巧はおれにキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!