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1.不器用
不器用だ、と言われる。
指先のことじゃない。
人と人とのコミュニケーションのことだ。
「お兄ちゃんてさあ、こんなに上手に折り紙折れるのに肝心なとこ弱くない?」
自分より(推定)100倍ぐらいコミュ力の高い妹が言う。指先と対人能力に関連性はないだろう。そう思ってちらりと見れば、机の上を覗き込むようにして顔を近づけてくる。
「⋯⋯明里、勝手に入ってくんな」
「ノックしたよぉ! 聞いてないのお兄ちゃんじゃん!」
ずっと集中してたから聞こえていなかったかもしれない。
「ねえ、いつも作ってる花、誰にあげてるの?」
机の上の花を指先で突こうとするので、じろりと睨みつけた。
「⋯⋯秘密」
「はぁ!?」
妹は一声叫んで奇妙な生き物でも見るような顔をする。相手をするのが面倒で、スマホの折り紙動画に目を向けた。それきりもう、絡んでは来なかった。
「たくみ―!」
校門で立っていると、自分の名が呼ばれた。
昇降口から唯人の走ってくる姿が見える。
大きな瞳は長い睫毛に縁どられて、きれいなカーブを描いている。凛々しめな眉ときっぱりした発言もあって気が強いと思われがちだが、本当は繊細で、すごく優しい。
昔から唯人に憧れる奴は多くて、今も幾つもの瞳が唯人を追う。
「ごめん、待った?」
「いや、全然。それより、ごめんな」
「え?」
「先週の土曜。約束してたのにダメにしちゃって。楽しみにしてただろ?」
「⋯⋯うん。でも、大丈夫。今日会えたし」
そう言って歩きながら手を握ってくる。
ドクン、と胸が鳴った。
目が合えば、えへへと嬉しそうな顔で笑う。
⋯⋯可愛い。唯人の言葉も、ふにゃと笑み崩れる顔も。柔らかい髪に触れて、艶やかな唇に思う存分キスしたい。
ずっと押さえてきた欲望が、体中を駆け巡る。
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