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2.御守り
通り道のマンションの脇にある、いつもの公園のベンチに向かう。腰掛ければ、冷やりとした感触が伝わってきた。
「うわ、なんか冷たっ!」
隣に座った唯人が腰かけた場所からびくんと跳ねあがる。こちらにぴたりと体をつけてきた。
⋯⋯ドクンドクンと胸の鼓動が早くなる。
唯人の綺麗な顔をじっと見ていたら、ベンチに置いた手をぎゅっと握られた。
いつもより熱い気がするのは周りが冷えているからだろうか。嬉しくなって握り返せば、頬が赤くなっている。
「あの、あのさ、巧」
「ん?」
「おれ、ちょっと頑張ってみたんだ」
唯人は鞄の中をごそごそと探って、ペンケースを取り出した。
透明なプラスチックのペンケースの中に、唯人は折り紙の花を必ず一つ入れている。
俺が渡した折り紙の中から毎日一つ選んで、いつも持っていてくれる。
『巧の花はさ、おれには御守りだから』
⋯⋯その言葉がどんなに嬉しかったか、唯人は知っているだろうか。
膝の上に置いたペンケースを開けようとして、唯人の手がぴたりと止まった。
「⋯⋯やっぱり、やめる」
「え? 何で?」
ペンケースを握りしめたまま、がばりと前かがみになって動かない。
「ゆい?」
「折り紙の神に⋯⋯、こんなものを見せようなんて無謀すぎた。やっぱり、おれは馬鹿だ⋯⋯」
「え? 何言ってんの。すっごく見たいんだけど」
無理やり唯人の顔を覗き込めば、真っ赤になって目が潤んでいる。
頬にそっとキスすれば、ぴくんと肩が揺れた。ふ、と唇が僅かに開いて吐息が漏れる様は、ひどく色っぽい。
あの小さな口の中に自分の欲望をねじ込みたい。
唯人は何も気づいてないんだろうな。頭の中に怪しい妄想がスタートすれば、絞りだすような声が聞こえた。
「巧、絶対に笑わない?」
泣きそうな顔でこちらを見る。
⋯⋯ああ、もう。エロ可愛すぎて死にそう。
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