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6.諍い
高校前のなだらかな坂をゆっくり下る。
おれの家は、高校まで徒歩15分だ。巧の家は20分くらいだが、方向が逆だった。
以前は朝、遠回りをしておれの家に寄ってくれていた。
「久しぶり⋯⋯。元気だった?」
「うん。巧は?」
「いつも通り。バスケばっか」
「そっか⋯⋯」
なにを話したらいいのか、わからない。
前は、二人でどんな事を話していたんだっけ?
巧と噂のあった子がバスケ部のマネージャーになったとか、ならないとか。
そんな話も文化祭準備の中で忘れていた。
いや、違う。聞かないようにしてきた。
巧のことを考えると眠れなくなるし、胃が痛くなる。
会わなければ、話さなければ。辛いこともないんだ。
いつのまにか忘れていくはず。
そう思っていた。
巧は、ごく自然におれの家に向かって道を曲がる。
斜め前を歩く姿に、胸の奥が熱くなった。
なんで、まだこんな気持ちになるのかな。
「唯。ちょっと、話してもいい?」
通り道のマンションの横に、小さな公園がある。
滑り台にブランコ。子どものための遊具が少しとベンチ。
部活帰りに、二人でよく寄った場所だ。
ベンチの端と端に座った。
巧は、おれの方を見ようとしない。
膝の上で組んだ指の色が、白く変わっている。
「唯は俺のこと、もう嫌⋯⋯なんだよな?」
「⋯⋯」
「LINE見てくれないし、連絡もくれないし」
その言葉に責められているような気持ちになる。
思わず、声が出た。
「⋯⋯見たって、仕方ないじゃん」
巧が、息を呑む気配がした。
「巧は、いつも用があるって言うだろ。朝も会えないし、帰りだって部活だし」
「それは、最近ずっと⋯⋯」
「ずっと?そうだよね。会えない日ばっかり。一緒に出かけることにしてた日があったじゃん。おれ、すごく楽しみにしてたんだ。それなのに⋯⋯」
後輩にネクタイを渡されそうになったことを思い出して、唇を噛んだ。
ああ、嫌だな。巧を責める気持ちばかり先に立つ。
おれにだって、悪いところはあったはずなんだ。
黙り込む巧を前に、おれは、大きく息を吐きだした。
「あ──!ごめん。嫌な言い方になっちゃって。こんなだから、巧だって疲れちゃうんだよね」
「疲れる?なんのこと?」
「1年の子が言ってた。巧が、おれといると疲れるって言ってたって。約束してた日の翌日にさ、あの子、巧にネクタイ渡してくれって言いに来たんだよ。部屋に忘れたからって」
「な、何を⋯⋯。向井、あいつ。そんなこと唯に言ったのか⋯⋯」
「あの子、向井って言うんだ。それよりもさ」
おれは、巧の目を見た。
「あの子のこと、部屋に呼んだの?」
「ゆーいー!!」
ちょうどその時、大声で名前を呼ばれた。
声の方を向くと、公園の入り口に多希がいた。
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