雪あと、さくさく

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 雪の降り積もった道に、さくさくと足あとが続いている。  朝の五時、犬たちのリードを引いて私は街を走る。夜明け前の住宅街はまだ眠ったまま、朝日が昇るのを待っている。  昨夜から初雪が降り、いつもの散歩道に数センチの雪が積もっていた。数匹の犬たちを愛犬のモチコが先導する。お天気のいい日は小型犬も合わせて八匹ほど連れて走るけれど、積もった道は危ないので雪になれた大型犬だけを選んできた。 「来てる……」  神社の敷地の前に、今日も足あとがついていた。私が走ってくる方角とは反対方向の道からうっすらと足あとが伸び、神社の拝殿に向かう石段に続いている。  粉雪が樫の木に降り積もり、上から足音が聞こえてきた。私はあわててリードを引いて犬たちと茂みに隠れる。  石段を下りてきたのは同じ年の頃の中学生だった。黒髪の彼は慎重に足元を確認しながら近づいてくる。上下スポーツウェアに今日はめずらしく黒い手袋をはめ、きゅっと吊り上がった眉に白い息がかかる。両肩は上気して雪を溶かしてしまいそうだ。  彼とは中学三年の春頃から朝の散歩ですれ違うようになった。いつも五時半きっかりに神社の境内下ですれ違う。支度に手間取って出発が遅れるともう姿がないので、日に日に散歩に出る時間が早くなり、最近はこうして待ち伏せまでしてしまう。  これじゃ私、ストーカーみたいじゃない、と思いながら白いモチコの頭をなでた。早く走ろうよ、と目を輝かせてくる犬たちに「ステイ」と小声で指示を出して、去っていく彼の後ろ姿を見つめる。  茂みから出ると私たちは雪にまみれていた。秋田犬のモチコに雪のかたまりが乗って鏡もちみたいになっている。笑いながら丁寧に払い落して残された足あとを見つめた。いつもどこから走ってくるんだろう。石段を昇って下りてくる頃にはずいぶん息が上がっているから近くじゃないんだろうな。  私はリードを引いて散歩コースに戻った。自宅の敷地内に犬と猫のための保護ハウスがあり、彼らが朝ご飯を待っている。雪道に残る足あとに後ろ髪を引かれながらも、黙々と夜明け前の街を走った。
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