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【ターゲット1──赤井彩音】
「最近、自殺者多くてチョーだりぃっす。君ら自殺者減らしてくんない? イけるっしょ? あ、イイコト閃いた。ペナルティとしてノルマ達成できなきゃお給料半分にすっから。そっちのがモチベ上がるっしょ? そんじゃヨロシクぅー」
やけにチャラチャラした見た目の青年──代表取締役のミナモが言った言葉を聞き、同僚の死神たちに動揺が走る。
ミナモは言うだけ言ったらさっさと行ってしまった。
隣の席に座るヒバシラが話し掛けてきた。
「おい、どうすんだこれ」
そんなの私に訊かれても分からない。
「さぁ、どうしようか」
「……カガミに訊いた俺が馬鹿だった」
それは申し訳ないことをした。
課長が緊急課内会議の開催を宣言する。それはそうなるよね。
異議は申し立てず、素直にミッションをこなすことが課内会議で決定された。課長は「新車を買ったばかりなんだ。分かるだろ?」などと言っていたが、あいにく私は車を持っていないのでその気持ちは分からない。
さしあたって転職サイトに登録だけはしておいたけど、転職が決まるまでは働かなきゃいけない。憂鬱な気分だ。
嫌だなぁ。どうやって減らせばいいのか……。
自殺者を減らそうなんて考えたことはない。それは隣のヒバシラも同じのようだ。
「カガミはいいよな。自殺理由が傷病以外の担当だもん。まだ可能性あるじゃん」
私の担当は怪我や病気以外を理由に自殺した人間の処理だ。そしてヒバシラは私とは逆、つまり怪我や病気を苦に自殺した者を扱う。
確かに難しそう。
「でも私もどうすればいいかなんて分からないよ」
ヒバシラが妙な顔になる。
「……まぁお前は特にそうかもな」
「うん。人の心なんて理解できないから……」
私はどうやら普通の死神より鈍いらしいのだ。なぜ自殺したのかがイマイチ分からないことがよくある。ヒバシラに言わせれば「なんで分からないのか分からない」らしい。
よっぽど私は無能なのだろう。
実際、自殺経過の報告書を上手く書けなくてよく怒られる。自殺理由や人格情報とかがちぐはぐで駄目らしい。
ここで担当領域での自殺希望者発生を知らせる通知が頭の中に鳴り響く。
──死にたい! 死にたい! リスカしよ! 死にたい! 死にたい! 首を吊ろ!
うるさいなぁ。この死神の仕様どうにかならないのかな。
私の様子から察したのか、ヒバシラがまた変な顔をする。これがちょっと前に浮世で流行っていた変顔ってやつなのだろう。
「自殺希望者が現れたみたい」
「おー、早速じゃん。上手く心変わりさせられそう……には見えないな」
その通りだ。自信なんて皆無。
「どうすればいいのかな」
私の問いにヒバシラは少しだけ間を空けて答える。
「まずは話をすることじゃないか。『なんで死にたいのか』とか『何に困っているのか』とか。そうやってそいつのことを知って説得する……くらいしか俺らにはできないよ」
なるほど。確かにその人のことが分かればなんとかなる……かなぁ? 自殺希望者って解決策が無いから死ぬんじゃないのかな。
でも一応意識してみるよ。
「やってみる。じゃあちょっと行ってくる」
「おう。頑張って」
「うん。ありがと」
ヒバシラに一言告げ、浮世へと転移する。
ちなみに靴は転移先に合わせて勝手に履いてたり、脱いでいたりする。昔は転移ごとに死神が手動で脱いだりしてたのだけど、煩わしいとのクレームが死神協会に殺到してこの仕様になったらしい。よく分からないね。
「ひゃ!? あなた誰ですか!?」
自殺希望者──赤井彩音さんの下に転移したら、驚かれてしまった。いきなり現れたらびっくりするよね。それくらいは私にも分かる。
場所は赤井さんの部屋。カーテンの隙間から日光がチラついている。
殺風景な部屋ね。
「はじめまして。私は死神のカガミ」
とりあえず挨拶しておく。挨拶は大切だからね。
しかしマナーを守った私に対して赤井さんが変な顔をする。ヒバシラならもっといろんな感想を持つのかもしれないけれど、私には変な顔としか感じない。
今、この少女は何を考えているのかな?
赤井さんが口を開く。
「嘘……っぽくはないですね。いきなり現れたし……」
「嘘じゃないよ。あなたが自殺したいみたいだから来たんだよ」
「……分かるんですか」
? 自殺のことかな。
「担当領域内なら“誰が自殺したいか”は分かるよ」
赤井さんがまとまった息を吐く。ホッとしたというやつだろうか。何に安心したのかな。
考えても分からない。そんなことより自殺をやめさせないと。
ヒバシラのアドバイスに従い、話をしてみよう。
「なぜ死にたいの?」
すぐに答える。落ち着いてるように見える。
「虐めに遭ってるんです」
なるほど。
前にも虐めを理由に自殺した人が居た。きっと人間は虐めに遭うと自殺したくなるのだろう。これなら私にも分かりそうだ。
よし、お願いしてみよう。
「自殺はやめて」
「……」
沈黙してしまった。何か間違ったのかな。変なことは言ってないはず。
「あのー、死神なんですよね?」
信じてなかったのかな。見た目は浮世の人と変わらないからね。
「そうだよ」
名刺があったはず。
スーツを漁ると革製名刺入れの感触。よかった。名刺を取り出して渡してやる。
──“DELETE SOULS 死神部自殺課 カガミ”
名刺にはそう記されている。
名刺を受け取った赤井さんは、口を半開きにして固まっている。
うーん? おかしいのかな。あんまり自殺希望者とコミュニケーションを取ったことないからよく分からない。
でも、確かに生きてる人間が死神を見ることは中々ないよね。
やっと再起動した赤井さんが言う。
「なんか逆に嘘臭いですね」
「え、どうして!?」
「……」
また変な顔してる。なんで私の周りの人は変な顔ばっかりするのかな。私の周り限定で流行ってるの? 変なの。
この際、死神って信じてもらわなくてもいいや。要は自殺しなければいいのだし。
「というわけで自殺はしないで」
どういうわけかはよく分からないと思うけど、私たちの為にもうちょっと生きてほしい。お給料半額は受け入れられない。
「……無理です」
無表情で赤井さんが言う。取り付く島もないという感じ。困った。
虐めが理由なら虐めが無くなればいいのかな。
「じゃあ虐めが無くなれば自殺しない?」
「……そうですね」
なるほど。ではそっち方面から動いてみよう。
「では、虐めっ子について教えて」
「……」
また変な顔……あ、でも眉間にシワを寄せてるからちょっと違うかも。何を考えてるかは不明だけど。
「どうしたの? 早く教えて」
私も暇ではない。第一四半期の自殺者をまとめたファイルを作って、課内共通フォルダに保存しなきゃいけない。こんな訳の分からないミッションをやってる場合じゃないのだ。
「……夏生美優。私の幼なじみです。美優ちゃんは──」
虐めっ子の情報を一通り語ってくれた。
住宅街の道の上。
「うぉ!? なんだお前!?」
虐めっ子──夏生さんのところに転移したら、さっきと同じように驚かれてしまった。
もしかしてこうやって現れるのって変なのかな。でも楽だし……。
「はじめまして。私は死神のカガミ」
「は? 何言ってんだ?」
メイクではっきりと存在を主張する瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。私よりメイクが上手いのではないだろうか。
「そのままの意味だよ。いろいろあって夏生さんに虐めをやめてもらわないといけないんだ」
夏生さんが片眉を上げる。
「彩音に頼まれたのか……?」
いや、頼まれてはいない。むしろ私が頼む側だ。
「違うよ」
「……じゃあなんで虐めをやめろなんて言うんだよ。つーか、死神ってなんだよ。意味分かんねぇ」
「死神にもいろいろあるの」
「はぁ……」
ヒバシラの言葉が思い浮かぶ。話をしろって感じのことを言っていたし、この子ともしてみよう。
「なんで虐めてるの?」
真っ直ぐ見つめて問うと、夏生さんはぱちぱちと瞬き。大きな瞳だ。
「……ムカつくからだよ」
「なんでムカつくの? 何かされたの?」
夏生さんが舌打ちをする。イライラしてるんだね。流石にこれは分かる。
「うぜぇな。死神とか知らねぇし、あんたには関係ねぇだろ!」
夏生さんが背を向け、早足で離れていく。住宅街の角を曲がると、もう見えなくなった。
「……」
2人の間に何かあったのかな。もうちょっと調べてみようか。
「情報収集に使え」と自殺課から支給された偽物の警察手帳を下校中の学生に見せる。
先ほどの夏生さんと同じ制服を着ているから何か知っているかもしれない。
「私はこういう者です。少しいいかな?」
「え、警察……」
少女が呟く。
警察ではないけれど、必要があれば嘘もつく。
「夏生美優さんと赤井彩音さんについて調べてるの。2人のことを教えて」
「……霜山君の事件関係ですか?」
誰?
「霜山君? その人はどういった方なの?」
少女が変な顔をするも、ややあってから教えてくれた。
「……霜山君は2人の幼なじみですよ」
つまり3人とも幼なじみなのかな。その彼の事件とはなんだろうか。
「事件とは?」
ん? 少女が目を細める。
「どうしたの?」
「……本当に警察なんですか?」
警察ではない。
事件を知らないと不自然だったみたいだ。なんとか誤魔化したいな。
「自分の担当業務のことしか分からないよ。他のことはあまり詳しくない」
嘘ではない。でも中身も無い。
少し変な顔で沈黙してたけど、どうやら一応は信用してくれたようだ。
少女が事件について述べる。
「……私たちが小学6年生の時、霜山君が電車に飛び込んだんですよ」
自殺……?
でも、おそらくは私の担当のはずなんだけど、記憶にない。まとめてる途中のファイル用資料でも、今のところそんな名前は見ていない。
人の心は分からない私だけど、強みが一つだけある。それは記憶力だ。一度見たものは忘れない。
だからこそ散々やらかしていても首にならずに済んでいるのだと思う。
そんな私が覚えていないのなら、私の担当領域ではないのかも。あるいはそもそも自殺ではない可能性もある。
確認しよう。
「何年前ですか?」
「2年前ですけど……」
「場所は?」
「K駅です」
「飛び込む前、霜山君は病気や怪我をしてた?」
「……してなかったと思いますけど、なんでそんなこと訊くんですか?」
病気や怪我もないみたいだし、日時的にも自殺ならば私の担当である可能性が極めて高い。それなのに私の記憶に無い。ということは自殺以外。
そして病気や怪我もしていなかったということは、それらが実質的な死因ではない。つまり他殺。
殺された……。
よし、他殺課に行こう。なんだかよく分からないけど、2人を知ることがお給料維持に繋がるかもしれないならやるしかない。
「ありがと。じゃあ、さよなら」
霊界の職場に転移。
あ、また人間の前で転移しちゃった。驚かせちゃったかな。ま、いいか。次から気をつけよう。
会社に戻ってきた。廊下に転移したみたい。狙いと少しずれちゃった。
皆が通る廊下にいきなり転移するのはマナー違反だ。悪いことをしてしまった。
他殺課は私たちの課の隣にある。自殺も他殺も人を殺すことに変わりはないから、昔は一纏めで殺人課だったらしい。その名残で隣同士になっている。
開けっ放しのドアをノック。
「失礼します」
私が入っても誰も視線を寄越さない。ここの死神たちはいつもこう。陰気で愛想がない。まるで自分のことのようだ。
同期の死神──ムスビに近づき、肩を叩く。
「!」
ムスビが漸く私の存在に気がついた。目が合う。隈が凄い。髪もボサボサだ。
「……なに」
「情報が欲しい。霜山という少年の死について教えて」
ムスビが視線をパソコンへと移す。
「いつ、どこ」
「2年前、東京K駅」
無言でマウスとキーボード操作し出した。ムスビのこういうところは好きだ。とても楽。
そしてカチカチ、カタカタが止まる。
「見て」
促されるままに画面を覗き込む。
あった。
──霜山透(12) 殺害者・赤井彩音(駅のホームで線路に突き飛ばす)
この課のデータにあるから他殺なのだろうと思っていたけど、赤井さんが殺してたのね。
でもこれはどういうことだろう。なぜ殺したのかな。そして赤井さんの自殺の動機と関係があるのかな?
とりあえず他所の課からお暇しよう。
「ありがと。助かったよ。じゃあね」
「……」
いつも通り返事はない。こちらを見ようとすらしない。でもそういうの好ましいと思う。
相変わらずの開けっ放しのドアから出る。
さて、次は……。
深夜3時、赤井さんの部屋へ音も無く転移する。非常に便利な能力だ。自殺希望者通知は嫌いだけど、転移は好き。
ベッドを見ると布団が膨らんでいる。寝てるね。
スマートフォンを探す。ベッドの頭のとこにある棚に置かれている。
膨らみを少し眺めても起きてる様子はない。
よし。
赤井さんのスマホをひょいっと借りてすぐに転移する。
今度は夏生さんの所に来た。夏生さんもベッドで寝てる。
スマホは……あった。
テーブルに置いてある。こっちも同じくちょっと拝借。
そして会社に転移。
「ふー疲れた」
まさかこんなコソ泥みたいな真似をするとは思わなかった。
盗ってきた夏生さんのスマホをタップする。画面が立ち上がる。ロックは掛かってないみたいだ。ツイてる。
通話アプリのLINERを起動する。
私の目的は2年前の3人に何があったのかを調べること。それが分かれば解決策が思い付くかもしれない。
あった。2年前くらいのトークを見つけた。何やらくだらない話をしているように思える。
この時、私は漸く大きな問題の存在に気がつく。
「……やばい、分からない」
盲点だった。私にはどの会話が3人にとって重要か分からない。全部同じに見える。
昨日のご飯とか嫌いな子がどうとか昨日の返事とか赤井さんがどうとか勉強をやりたくないとか、全部大した意味が無い気がする。
どうしようかと途方に暮れていると、比較的耳に馴染んでいる声がした。
「こんな時間に何してんだ?」
ヒバシラだ。
「うっわ。なんだよ」
今の私はきっと変な顔──変顔をしているだろう。
「ちょっと助けて」
「はぁ?」
ヒバシラも変顔だ。2人で変顔。にらめっこみたいだね。
ヒバシラが寄ってきた。ところでヒバシラは何してるのだろう。魂の回収かな。夜中に死なれると起きて浮世にいかなきゃいけないからね。
「実は自殺希望者たちのスマホを盗ってきたんだけど、重要な会話がどれか分からなくて……」
「無茶苦茶するなぁ」
と言ってたけど、なんだかんだで教えてくれた。赤井さんのスマホはロックが掛かってたけど、大体予想はできるらしい。
私からすれば「そんなものなのか……」という感じだけど。
でも、もしかしたらなんとかなるかもしれない。
スマホを返しに行こう。そしてもう一度お願いしてみよう。
──転移。
夏生さんの部屋にスマホを返し、再度転移して赤井さんの部屋にやって来た。時刻は深夜3時47分。赤井さんはスヤスヤと眠っている。
赤井さんを起こそうと揺する。
「ん……」
起きたかな。
ボヤっとした赤井さんと目が合う。手を振ってみる。
ややあってから赤井さんが悲鳴を上げる。
「ひゃ!? またあなたですか!?」
「こんばんは。お話があるから起きて」
また変顔された。皆、一体何を考えてこんな顔をするのだろ。
「……なんですか」
漸くお話をしてもらえそうだ。ヒバシラも会話が大事だって言ってたし、きっと私はいいことをしているのだろう。
早速、単刀直入に本題に入る。
「私に嘘をついたよね?」
「……」
沈黙が生まれる。私、おかしいこと言ったかな? 多分、大丈夫だよね。
「赤井さんが死にたいのは虐めに遭ってるからではなくて、霜山さんを殺した罪悪感から逃げたいから。違う?」
私にはよく分からないけど、ヒバシラがそう言ってたよ。
赤井さんの眉間に深いシワが現れる。
「(夏生さんの)スマホを見させてもらった。赤井さんは霜山さんに告白してフラれてる。それなのに霜山さんは夏生さんに告白して、2人は付き合うことになってた。嫉妬心から殺したのでしょ?」
ヒバシラに言われて思い出したけど、昔、浮気した旦那さんと無理心中した人が居た。人間は性欲の対象にした異性が自分の支配下に居ないと、お相手を殺したり、自殺したりする生き物らしい。変なの。
変だけど赤井さんもその例に漏れなかったみたい。
沈黙していた赤井さんが口を開く。
「全てお見通しなんですね……」
正解だったようだ。ヒバシラ、ありがとう。
では、改めてお願いしよう。
「意味無いから自殺はやめて」
「……意味無いってどういうことですか」
「自殺しても落ちる地獄がキツくなるだけで罪悪感が消えるわけではないよ。むしろ逃げたかった罪悪感が大きくなるようにするらしいよ」
地獄で働く知り合いがそのようなことを言っていた。よく分からなかったけど、こういうケースを想定していたのかもしれない。
赤井さんの目が潤み出す。泣かなくてもいいのに。
「……じゃあどうすればいいの!? 私は……私は……」
涙がぽたりと布団に落ち、染み染み込んでいく。
どうすればいいかは私にも分からない。私からすれば自殺をやめてくれればなんでもいい。
でも、罪悪感を減らしたいなら──。
「謝ればいいんじゃない?」
「へ……?」
「謝って許してもらえるようにお願いすればいいんじゃないの」
そうは言っても霜山さんはとっくに処理されてて会えないから、夏生さんとかの関係者に謝るしかない。
「そんなの……」
「でも他にできることはないよ。自殺しても無駄。何もしなくても駄目。そうなると謝るくらいしかないんじゃない?」
私からすれば誰を殺そうと気にしないで楽しく生きていけばいいと思うのだけど、赤井さんはそうはいかないらしい。面倒くさいね。
「……」
また黙り込んじゃった。
──コンコンコン。
突然、部屋のドアがノックされた。
「どうしたの? 何かあったの?」
女性の声だ。
「お母さん……」
赤井さんのお母さんが来ちゃったのか。
じゃあ言うこと言ったし、そろそろ帰ろうかな。
死神にできることはもうない。自殺しないで私のお給料になってくれることを祈るだけだ。
「じゃあ死なないでね。さよなら」
会社に転移。
数日後、赤井さんが自殺希望者リストから消滅した。
どうやら自首をしたらしい。それで自殺したくなくなるものなのね。よく分からない。
でも、分からなくてもミッション達成だ。あとは報告書をまとめて提出すれば、赤井さんの件から解放される。
オフィスでキーボードを叩いていると、ヒバシラが転移してきた。また変な顔をしている。
「お疲れ様。どうしたの?」
「……なんかよ」
「うん」
「『私と付き合ってくれたら自殺しない』って言われたんだよ」
「うん?」
「どうすりゃいいんだよ……」
それを私に言って答えが返ってくると思っているのだろうか? 私に分かるわけがない。
でも、そうね。人間は性欲が絡むとすぐ殺したり、自殺したりするみたいだから甘んじて受け入れるしかないんじゃない?
「付き合えば? ヒバシラの担当ならほっといてもすぐに死ぬでしょ? それまでの我慢だよ」
ヒバシラが凍る。周りで聞いていた同僚が吹き出す。
私、変なこと言ったかなぁ? 理屈は通ってるよね?
「はぁ……。カガミに言った俺が馬鹿だった……」
それは大変申し訳ないことをした。お詫びにお昼ご飯を奢ってあげよう。今回も助けられたしね。
「今日、2人でご飯行こうよ」
ヒバシラがここ最近で一番変な顔をする。私も対抗した方がいいのかな?
「……いいけどよ」
「そ。ありがと」
さぁ、報告書をさっさと仕上げよう。
何食べようかなぁ?
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