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♢バーにて
♢
とても薄暗い。
怪しい物をやり取りするには持ってこいの場所である。
目的地に着くと地図のナビは自動的に終了した。
彼女にスマホを返すと、彼女はそのままポケットに入れて一礼した。
昼間なのに薄暗いバーは、確かにそこにあった。
小さな青いプレートには『closed』と書かれていて、
彼女は躊躇なく入った。
俺は何かを尋ねるでもなく、後に続くだけだった。
ドアが開くと鈴の音が鳴る。
バーの中には誰もいない。
照明も付いていない。
ひんやりとした空気が充満している匂いがした。
カウンターの奥には見たこともない外国語でラベリングされた酒が沢山並んでいる。
それから木造をイメージしたような、まばらな茶色の壁。
壁には不気味な程に様々な大きさの絵画が並べて飾られていた。
細長いカウンターの他には、テーブル席が3つ。
とても静かな空間の中に、男と女は2人で居た。
「では、ありがとうございました。
とても助かりました」
女は席に座ることもなく、一定の距離を保って話し掛けた。
「あ、じゃあこれ」
一刻も早く終わらせたかった。
それなのに俺が差し出した紙袋を、彼女は受け取らなかった。
「なんですか、これ」
ナンデスカ、コレ。
頭の中で反芻した。
彼女の言う言葉が、しばらく変換出来なかった。
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