♢バーにて

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途方に暮れるとはこのことだった。 櫻子は怯えたまま、俺の顔を伺っている。 「17時には着くと言ってたよ」 「叔父さんでしたか」 櫻子の不安そうな顔が、幾らか和らいだ。 「何故俺に声をかけた」 俺はタバコに火をつけた。 今落ち着いて物事を考えるには、他に選択肢は無かったのだ。 「…この街を1人で行動するには危険と言われました。 なので、声を掛けても安全そうな人を伺っていたんです」 櫻子は窓から影が映るのを避ける為か、 椅子には座らず床に足を伸ばしていた。 罪悪感がチクチクという音を立てて、心臓を突き刺した。 何を隠そう、今からこの街で悪党になろうとしていたのは俺である。 「それで、スーツケースの中身は何が入っている」 彼女はしばらく黙っていた。 座っていてもケースの持ち手は離さず、しっかりと握ったままである。 「価値がある物だというのは分かっている」 俺の一言に観念したのか、彼女は口を開いた。 「絵画です」 「絵画?」 壁に掛かっている絵画の人物たちが、 一斉にこちらを見たような気がした。
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