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途方に暮れるとはこのことだった。
櫻子は怯えたまま、俺の顔を伺っている。
「17時には着くと言ってたよ」
「叔父さんでしたか」
櫻子の不安そうな顔が、幾らか和らいだ。
「何故俺に声をかけた」
俺はタバコに火をつけた。
今落ち着いて物事を考えるには、他に選択肢は無かったのだ。
「…この街を1人で行動するには危険と言われました。
なので、声を掛けても安全そうな人を伺っていたんです」
櫻子は窓から影が映るのを避ける為か、
椅子には座らず床に足を伸ばしていた。
罪悪感がチクチクという音を立てて、心臓を突き刺した。
何を隠そう、今からこの街で悪党になろうとしていたのは俺である。
「それで、スーツケースの中身は何が入っている」
彼女はしばらく黙っていた。
座っていてもケースの持ち手は離さず、しっかりと握ったままである。
「価値がある物だというのは分かっている」
俺の一言に観念したのか、彼女は口を開いた。
「絵画です」
「絵画?」
壁に掛かっている絵画の人物たちが、
一斉にこちらを見たような気がした。
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