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「父の遺品なんです。
どうやら悪い人たちが探していた代物らしくて、
ここ数ヶ月、私はずっとその人たちから逃げる生活を送っていました。
今日はようやく外国に住んでいる叔父に預かって貰うことになっていて」
彼女の言う『悪い人たち』は
道理の通じる人ではなさそうだった。
一体その絵画とやらに、どれ程の価値があるというのか。それが不思議だった。
彼女は話を続けた。
「ここは、父が経営していたバーです」
彼女は下を見たままだ。
「していた」と言っていたが、カウンターに設置された棚には
数多と酒が並んでいる。
もう長い間店をやっていないような雰囲気はあった。
しかしこれだけの酒が並んでいて、既に閉店していることに驚きだった。
「突然亡くなったから、何も知らないままなんですけど。
私が絵画を外国に運ぼうとしていることは、
既にあの人たちに知れ渡っていると思います」
彼女の叔父は南米で会社を経営している社長のようだった。
何の会社かは知らないと言った。
この街にはビルの屋上にヘリポートがある。
叔父はそこを使って、櫻子を迎えに来るという。
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